恋はひと匙の魔法から
 心を曝け出せる相手がいる夕貴が羨ましい。
 透子は初めての彼氏に振られて以降も何度か男性と付き合うことはあったが、どちらとも上辺だけを取り繕った浅い関係しか築くことができずに終わっていた。
 
 原因は間違いなく透子にある。
 唯一にして最大の欠点が、食事を楽しめない、ということだった。
 付き合うに至るまでの過程では普通に振る舞えるが、相手と想いを通わせるとダメだった。
 透子の心に闇を落とす元彼の謗りがまるで呪縛のように何度もフラッシュバックしてしまう。
 好きな人に失望されるというのはそう何度も味わいたい感情ではない。醜く思われたくないという意識が一種の強迫観念へと変化し、ふとした瞬間に食べ過ぎを疑い、気もそぞろになってしまっていた。
 そうなると会話が楽しめなくなり、次第にやり取りもぎこちなくなる。
 大体三回目くらいのデートで振られるのが、透子のお決まりの恋愛パターンだ。
 刺さったまま抜けない棘のように、いつまでもちくちくと攻撃してくるトラウマをまた思い起こして、透子は皮肉っぽく笑った。
 
 感傷的な思考を遮るように、ピピピピッとセットしていたキッチンタイマーが茹で時間を過ぎたことを告げる。
 湯切りしたパスタをフライパンで炒めていた具材に絡め、その内の一本を掬い上げて口に運ぶ。ニンニクの香ばしさが鼻を抜けるのと同時に、大葉のさっぱりとした味わいが口の中に広がった。
 満足のいく出来に顔を綻ばせながら、お皿に盛り付けていると、ガチャリと扉が開く音が背後から聞こえた。振り返ると、夕貴が申し訳なさそうに眉を下げて、扉の横に立っている。

「仲直り、できた?」
「うん……。ごめんね、お騒がせしました」
「ううん。今日はどうする?帰る?」
「……泊まっていってもいい?」
「もちろん。夕貴の好きなペペロンチーノ作ったから一緒に食べよ」

 お皿を掲げて見せると夕貴もパッと笑顔になる。
 テーブルに戻り、取り分けたパスタを口に運んでいると、夕貴が何やら微笑ましげに視線を寄越してくる。

「透子は本当に美味しそうに食べるよねぇ。可愛い」
「そんなこと言ってくれるのは夕貴だけだよ」

 もぐもぐとひたすらに食べるこの姿を「可愛い」なんて評してくれるのは、親友の贔屓目に違いない。どちらかと言うと「卑しい」の方が似合っていそうだ。
 透子が微苦笑すると、夕貴は少し不服そうに唇を尖らせた。
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