恋はひと匙の魔法から
「そんなことないと思うけど。そういえば、西岡さんは?何か進展ないの?」
透子の片想いを唯一知る親友が、身を乗り出して問い詰めてくる。
「進展って感じじゃないけど……」
「けど?!」
期待に満ちた夕貴の眼差しに透子は苦笑する他ない。そんな大層なものじゃない、と前置きした上で、二週間ほど前から西岡のお弁当を作り始めたことと、ついでに西岡が工藤英美里と別れていたことを話す。
「それで?」
「それだけ」
「えー!なんでよ!お礼に飲みに行こうとかそういう展開ないの?!」
「ないない。西岡さん忙しいし、私のことは興味ゼロだし」
西岡は透子よりも帰るのが遅い。時々セキュリティカードに記録された退室時間を見ているが、大抵が夜の十時を過ぎている。それに早く帰る日にも会食の予定があり、まず透子と予定が合う日はない。
そもそもお弁当を作ることも「業務の延長」であるため、透子と飲みに行くどうこうなんて話には当然ならないのだ。
親密になる可能性は最初から断たれているというのに、夕貴は何やら不満げだ。
「どうすんのさ、透子。このままじゃ完全にオカン路線だよ!いいの?!それで!」
「まあ……よくはないけどさぁ……」
「西岡さんと付き合いたくないの?!」
「そりゃあ……付き合えたらって思わなくはないけど……」
けれど、それは一種の夢物語だ。
西岡が求めるのは、英美里のような美貌も知性も全て兼ね備えた女性だろう。何もかもが普通の域を出ない、料理くらいしか取り柄のない透子には高嶺の花すぎる。
それに、元彼のように西岡に幻滅されてしまったら……それこそ立ち直れない。
結局透子は、怖気付いて二の足を踏んでいるだけの意気地なしなのだ。
そう話すと、夕貴は机から身を乗り出して透子の肩をガシッと掴み、前後にゆさゆさと揺さぶった。
「もう!ネガティブ禁止!自信を持ちなさい、自信を!いつまでも昔の最低野郎を引きずってたら縁が遠のいてくよ!」
「引きずってるわけじゃ……」
「それに、工藤英美里とは別れたんでしょ!次は全然違う味が欲しくなるかもしれないじゃない!今こそアピールしなきゃ!アピール!」
「うぅ……は、はなして……」
アルコールに侵された頭をグラグラと揺さぶられ、段々と気持ち悪くなってきた。徐々に顔色を悪くする透子の表情の変化に気がついたのか、夕貴は軽く謝りながらようやく解放してくれた。
その代わり、夕貴はバンっとテーブルに手をついた。その様はまるで演説をする政治家だ。
「とにかく向こうがその気ないんだったら、尚更透子からアプローチしなくちゃ!胃袋は既にもう掴んでるんだから、なんなら料理で釣って、さり気なく家に誘っちゃえば?案外ついてくるかもよ?」
「そ、そうかなぁ……」
「むしろその手しかない!押して押して押しまくれ!」
依然として覆いかぶさらん勢いで捲し立てる夕貴に、透子はたじろぐ。
そんな野良犬を手懐けるような真似が西岡に通用するんだろうか。しかし、頷かない限り夕貴は解放してくれそうにない。結局、前のめりさに押し負けた透子は「わかった」と降参し、一ヶ月以内に西岡を家に誘うという無理難題を約束させられたのだった。
透子の片想いを唯一知る親友が、身を乗り出して問い詰めてくる。
「進展って感じじゃないけど……」
「けど?!」
期待に満ちた夕貴の眼差しに透子は苦笑する他ない。そんな大層なものじゃない、と前置きした上で、二週間ほど前から西岡のお弁当を作り始めたことと、ついでに西岡が工藤英美里と別れていたことを話す。
「それで?」
「それだけ」
「えー!なんでよ!お礼に飲みに行こうとかそういう展開ないの?!」
「ないない。西岡さん忙しいし、私のことは興味ゼロだし」
西岡は透子よりも帰るのが遅い。時々セキュリティカードに記録された退室時間を見ているが、大抵が夜の十時を過ぎている。それに早く帰る日にも会食の予定があり、まず透子と予定が合う日はない。
そもそもお弁当を作ることも「業務の延長」であるため、透子と飲みに行くどうこうなんて話には当然ならないのだ。
親密になる可能性は最初から断たれているというのに、夕貴は何やら不満げだ。
「どうすんのさ、透子。このままじゃ完全にオカン路線だよ!いいの?!それで!」
「まあ……よくはないけどさぁ……」
「西岡さんと付き合いたくないの?!」
「そりゃあ……付き合えたらって思わなくはないけど……」
けれど、それは一種の夢物語だ。
西岡が求めるのは、英美里のような美貌も知性も全て兼ね備えた女性だろう。何もかもが普通の域を出ない、料理くらいしか取り柄のない透子には高嶺の花すぎる。
それに、元彼のように西岡に幻滅されてしまったら……それこそ立ち直れない。
結局透子は、怖気付いて二の足を踏んでいるだけの意気地なしなのだ。
そう話すと、夕貴は机から身を乗り出して透子の肩をガシッと掴み、前後にゆさゆさと揺さぶった。
「もう!ネガティブ禁止!自信を持ちなさい、自信を!いつまでも昔の最低野郎を引きずってたら縁が遠のいてくよ!」
「引きずってるわけじゃ……」
「それに、工藤英美里とは別れたんでしょ!次は全然違う味が欲しくなるかもしれないじゃない!今こそアピールしなきゃ!アピール!」
「うぅ……は、はなして……」
アルコールに侵された頭をグラグラと揺さぶられ、段々と気持ち悪くなってきた。徐々に顔色を悪くする透子の表情の変化に気がついたのか、夕貴は軽く謝りながらようやく解放してくれた。
その代わり、夕貴はバンっとテーブルに手をついた。その様はまるで演説をする政治家だ。
「とにかく向こうがその気ないんだったら、尚更透子からアプローチしなくちゃ!胃袋は既にもう掴んでるんだから、なんなら料理で釣って、さり気なく家に誘っちゃえば?案外ついてくるかもよ?」
「そ、そうかなぁ……」
「むしろその手しかない!押して押して押しまくれ!」
依然として覆いかぶさらん勢いで捲し立てる夕貴に、透子はたじろぐ。
そんな野良犬を手懐けるような真似が西岡に通用するんだろうか。しかし、頷かない限り夕貴は解放してくれそうにない。結局、前のめりさに押し負けた透子は「わかった」と降参し、一ヶ月以内に西岡を家に誘うという無理難題を約束させられたのだった。