恋はひと匙の魔法から
 西岡の追及から解放された多原が若干くたびれたような顔つきで席へと戻っていく。それを横目で見届けていると、「透子」と西岡からまたお呼びがかかった。手招きをされ、透子は席を立って彼のデスクに歩み寄る。

「どうされました?」
「これあげる」

 そう言って西岡が足元から取り出してきたのは、彼にはあまり似つかわしくない、可愛らしい蔦模様が描かれた水色の紙袋。
 それを透子へ向けて差し出してくる。取引先から貰った手土産の類だろうか。

「皆さんに配れば大丈夫ですか?」
「透子にあげるやつだよ。いつも弁当作ってくれてるお礼」
「えっ、わ、私にですか……?」

 相当驚いた顔をしていたらしい。西岡がクックッと笑いを噛み殺していて、透子は顔を赤くした。
 わざわざ自分のために買って来てくれたんだろうか。そう思うと嬉しさが胸一杯に溢れてくる。受け取った紙袋をギュッと大切に腕に抱えた。
 感極まった声でお礼を言うと、西岡は「そんな大したものじゃないよ」と苦笑しながらも、満足そうに頷いた。

「いつも悪い。今日もすごく美味かった」
「いえ、お役に立てて何よりです……」
「役に立つどころか。透子に支えてもらわなきゃ、俺は碌に仕事もできないからな」
「そんなことないですよ……」

 大袈裟だ。
 リップサービス以外の何物でもないと分かっているのに、頬に熱が集まるのを止められない。
 西岡に褒められると無条件で顔が赤くなるのは、この二年ですっかり実装に至ってしまった透子の仕様だった。
 五分後に会議がある西岡は、ノートパソコンを脇に抱えて立ち上がった。その去り際、邪魔にならないよう横にずれた透子の頭を西岡の大きな手のひらがポンと撫でる。

「いつも助かってる」
 
 男らしく筋張った手が透子の髪の上を滑る。その感触を追うように、自らの頭をそっと手で押さえた。
 ほぅっと余韻に浸っていた透子だったが、西岡の背が見えなくなったところでやっと我に返り席へと戻る。
 バクバクと落ち着きなく脈を打つ心臓を宥めるように深呼吸を繰り返していると、背後から声がかかった。
< 27 / 131 >

この作品をシェア

pagetop