恋はひと匙の魔法から
この人の役に立ちたい。打ちのめされていた自分を拾ってくれたこの人に報いたい――
そんな高揚感が透子の胸を占めた。
透子はもう一度深々と頭を下げ、自分の席へと戻った。けれども、なんだか無性に西岡の顔が見たくなって、チラリと彼の方を窺い見る。
西岡はデスクの引き出しから取り出した黄色い箱のパッケージを開けている。コンビニでよく見る栄養食品だ。この会社に入社してから毎日、透子は西岡のデスクでそのパッケージを目撃していた。
彼は袋から、ショートブレッドに似たそれを摘み出して口に運んだ。
透子はその様子をついジーっと眺めてしまう。
(いつも思ってたけど、毎日それなの……?)
飽きないんだろうか……?というか、それ以前にあの量で足りるのか。
毎日三食モリモリ食べている透子には信じ難い食生活を送る西岡へ、思わず驚愕の眼差しを送ってしまう。
すると、彼がおもむろにこちらへ振り向いた。不躾に眺める透子を不思議に思ったのか、首を傾げている。
「なんかあった?」
「あ、いえ……その、西岡さんってお昼ご飯それだけなんですか?」
透子は西岡のデスクに置かれた黄色い箱を指差した。西岡は、自分の手に持っていた齧り掛けのそれを少し掲げて見せる。
「これ?ああ、そうだけど……」
「……それだけで足りるんですか?ていうか飽きませんか?」
「あー……。まあ、とりあえず腹に入れておこうって程度にしか考えてないから。買いに行くの面倒だし」
透子は驚きのあまり口をあんぐり開けた。
てっきり忙しくて買いに行く暇がないのかと思いきや、面倒くさいからだとは……。
西岡にとって食事の優先順位は恐ろしく低いらしい。
透子はそんな彼が心配になった。食事をおざなりにして働き続けては、いつ体を壊してもおかしくない。
お節介かとは思ったが、透子は口を出さずにはいられなかった。
「あの……よければ私が買ってきましょうか?お昼ごはん」
本当は、お弁当を作りますよ、と言いそうになったがその言葉は既のところで飲み込んだ。流石に厚かましいだろう。
透子の申し出は西岡にとって想定外だったらしく、目をパチクリと瞬かせている。
「え?」
「やっぱり毎日同じのだと飽きちゃうと思いますし、健康的にもどうかなってずっと思ってたんです。たまにならいいですけど、毎日だと、栄養も偏りますし……」
「気持ちはありがたいけど、そんな小間使いみたいなことを三浦にさせるわけにはいかないだろ?大丈夫、気にしなくていいよ」
その言葉を聞き、透子は逆に使命感を募らせた。
ついさっき、彼の役に立ちたいと思ったばかりなのだ。彼の健康を支えるのは最早自分の義務のようにすら思えた。
そんな高揚感が透子の胸を占めた。
透子はもう一度深々と頭を下げ、自分の席へと戻った。けれども、なんだか無性に西岡の顔が見たくなって、チラリと彼の方を窺い見る。
西岡はデスクの引き出しから取り出した黄色い箱のパッケージを開けている。コンビニでよく見る栄養食品だ。この会社に入社してから毎日、透子は西岡のデスクでそのパッケージを目撃していた。
彼は袋から、ショートブレッドに似たそれを摘み出して口に運んだ。
透子はその様子をついジーっと眺めてしまう。
(いつも思ってたけど、毎日それなの……?)
飽きないんだろうか……?というか、それ以前にあの量で足りるのか。
毎日三食モリモリ食べている透子には信じ難い食生活を送る西岡へ、思わず驚愕の眼差しを送ってしまう。
すると、彼がおもむろにこちらへ振り向いた。不躾に眺める透子を不思議に思ったのか、首を傾げている。
「なんかあった?」
「あ、いえ……その、西岡さんってお昼ご飯それだけなんですか?」
透子は西岡のデスクに置かれた黄色い箱を指差した。西岡は、自分の手に持っていた齧り掛けのそれを少し掲げて見せる。
「これ?ああ、そうだけど……」
「……それだけで足りるんですか?ていうか飽きませんか?」
「あー……。まあ、とりあえず腹に入れておこうって程度にしか考えてないから。買いに行くの面倒だし」
透子は驚きのあまり口をあんぐり開けた。
てっきり忙しくて買いに行く暇がないのかと思いきや、面倒くさいからだとは……。
西岡にとって食事の優先順位は恐ろしく低いらしい。
透子はそんな彼が心配になった。食事をおざなりにして働き続けては、いつ体を壊してもおかしくない。
お節介かとは思ったが、透子は口を出さずにはいられなかった。
「あの……よければ私が買ってきましょうか?お昼ごはん」
本当は、お弁当を作りますよ、と言いそうになったがその言葉は既のところで飲み込んだ。流石に厚かましいだろう。
透子の申し出は西岡にとって想定外だったらしく、目をパチクリと瞬かせている。
「え?」
「やっぱり毎日同じのだと飽きちゃうと思いますし、健康的にもどうかなってずっと思ってたんです。たまにならいいですけど、毎日だと、栄養も偏りますし……」
「気持ちはありがたいけど、そんな小間使いみたいなことを三浦にさせるわけにはいかないだろ?大丈夫、気にしなくていいよ」
その言葉を聞き、透子は逆に使命感を募らせた。
ついさっき、彼の役に立ちたいと思ったばかりなのだ。彼の健康を支えるのは最早自分の義務のようにすら思えた。