恋はひと匙の魔法から
グラスを購入した後は、建物内を一通り見て回った。その道すがら、透子の脳内は必死でこの次の予定を組み立てようとしていた。
(どうする?お腹は、流石にまだ空いてないし。コーヒーもさっき飲んだし。さ、散歩とか……?ちょっと歩くけど皇居もあるし。でも歩くのダルいかな……。どうしよう……何にも思い浮かばない……)
少しでも長く一緒にいたくて、なんとか彼を引き留められないものかと策を練る。ここしばらく、ただ見ているだけの恋しかしていなかったせいで、デートで何をすべきなのか全く思い浮かばない。焦燥だけが募っていくばかりだ。
「透子?」
「はっ、はい!なんでしょう?」
思考の海に溺れかけていた透子だったが、西岡の呼びかけが耳に入りバッと弾かれたように勢いよく面を上げた。全く話を聞いていなかったことに狼狽えながら彼を仰ぎ見る。
あたふたする透子を見て、西岡は口元に弧を描いたかと思うと徐に地面を指差した。
「駐車場行ってもいい?」
「……は、はい……」
頭の中で構築しようとしていた次のプランがサラサラと砂と化して崩れていく。
時刻は二時を過ぎたところ。解散にはまだ早い時間だ。
このデートを楽しんでいたのは透子だけだったらしい。透子は唇を噛み、己の力不足を悔やんだ。
常にドキドキはしていたが、男性と二人きりの時間を変に気負わず自然体で楽しむことができたのは本当に久しぶりだった。元彼の誹りが頭を掠めることもなく、いつも通りの透子でいられた。
しかし結局は透子の独りよがりだった。近づいたと思った距離は離れ、月曜からはまた、ただの上司と部下の関係に戻るだけ。
無情な現実に胸を切り裂かれた透子は俯き加減で頷くことしかできない。
ポン、とエレベーターの到着を告げるチャイムが鳴り、ぞろぞろと乗り込む人の波に透子たちも後に続く。
駅への直結通路がある地下一階に到着する間際、透子は西岡へ声を掛けた。
「あの、私、電車で帰りますね」
車で来ていたらしい西岡は透子を送ってくれようとしているのかもしれないが、これ以上彼の純粋な厚意を受け取ると傷に沁みる。
筐体から降りていく一団に混ざり、彼に別れを告げようとした刹那、左腕がグッと引かれた。
必然的に足を止めざるを得なくなった透子は扉が再び閉まるのを見届けるしかなかった。そして、困惑気味に隣に立つ人を見上げる。
「あの、西岡さん……」
遠回しに彼の行動を窘めるも、西岡は透子の腕を掴んだまま離さない。
「車で送らせて」
「……は、はい。ありがとう、ございます」
そうはっきりと告げられてしまっては断れない。同時に、本当に帰るんだと思い知らされて透子の胸にツキンと痛みが走った。
おずおずと頭を下げると、腕を掴んでいた西岡の手が離れていく。
(どうする?お腹は、流石にまだ空いてないし。コーヒーもさっき飲んだし。さ、散歩とか……?ちょっと歩くけど皇居もあるし。でも歩くのダルいかな……。どうしよう……何にも思い浮かばない……)
少しでも長く一緒にいたくて、なんとか彼を引き留められないものかと策を練る。ここしばらく、ただ見ているだけの恋しかしていなかったせいで、デートで何をすべきなのか全く思い浮かばない。焦燥だけが募っていくばかりだ。
「透子?」
「はっ、はい!なんでしょう?」
思考の海に溺れかけていた透子だったが、西岡の呼びかけが耳に入りバッと弾かれたように勢いよく面を上げた。全く話を聞いていなかったことに狼狽えながら彼を仰ぎ見る。
あたふたする透子を見て、西岡は口元に弧を描いたかと思うと徐に地面を指差した。
「駐車場行ってもいい?」
「……は、はい……」
頭の中で構築しようとしていた次のプランがサラサラと砂と化して崩れていく。
時刻は二時を過ぎたところ。解散にはまだ早い時間だ。
このデートを楽しんでいたのは透子だけだったらしい。透子は唇を噛み、己の力不足を悔やんだ。
常にドキドキはしていたが、男性と二人きりの時間を変に気負わず自然体で楽しむことができたのは本当に久しぶりだった。元彼の誹りが頭を掠めることもなく、いつも通りの透子でいられた。
しかし結局は透子の独りよがりだった。近づいたと思った距離は離れ、月曜からはまた、ただの上司と部下の関係に戻るだけ。
無情な現実に胸を切り裂かれた透子は俯き加減で頷くことしかできない。
ポン、とエレベーターの到着を告げるチャイムが鳴り、ぞろぞろと乗り込む人の波に透子たちも後に続く。
駅への直結通路がある地下一階に到着する間際、透子は西岡へ声を掛けた。
「あの、私、電車で帰りますね」
車で来ていたらしい西岡は透子を送ってくれようとしているのかもしれないが、これ以上彼の純粋な厚意を受け取ると傷に沁みる。
筐体から降りていく一団に混ざり、彼に別れを告げようとした刹那、左腕がグッと引かれた。
必然的に足を止めざるを得なくなった透子は扉が再び閉まるのを見届けるしかなかった。そして、困惑気味に隣に立つ人を見上げる。
「あの、西岡さん……」
遠回しに彼の行動を窘めるも、西岡は透子の腕を掴んだまま離さない。
「車で送らせて」
「……は、はい。ありがとう、ございます」
そうはっきりと告げられてしまっては断れない。同時に、本当に帰るんだと思い知らされて透子の胸にツキンと痛みが走った。
おずおずと頭を下げると、腕を掴んでいた西岡の手が離れていく。