恋はひと匙の魔法から
「まあだから、ガキの頃は親がほとんどいなくて、俺も透子と同じようにばあちゃんに育てられたみたいなもんだったよ。俺は透子と違って、家事は全く出来なかったけど」
「私も別に、料理は趣味って感じだっただけで、他はそれほどですよ」
「あんな上手いのが作れる時点で十分すごいよ。洗濯と掃除はなんとかなっても、料理は才能だからな」
くたびれた様子で言うその言葉はやけに実感がこもっていた。
なんでも、彼が小さい頃は祖母が通いで面倒を見てくれていたらしい。だが、彼が小学校を卒業する頃に祖母が腰を痛めてしまい手伝いに通えなくなってからは、なかなかに苦労したようだ。
家族全員で協力し、掃除洗濯は分担することでなんとか熟せたものの、料理だけは全員不得手でどうにもならなかった。そのため、レトルトや惣菜を中心とした食生活をずっと送っていたのだという。
「だから透子の弁当見た時、すごい食いついちゃったんだよなぁ。多分自覚はなかったけど、手料理に飢えてたんだと思う」
「ちょっと分かります、その気持ち。外食とかお惣菜って美味しいですけど、ずっと続くと飽きちゃいますもんね」
透子も一時期外食やレトルト続きだったことがある。
普段あまり食べないこともあって最初は新鮮だったが、毎日違う物を食べているはずなのに不思議とだんだん飽きてしまっていた。結局休みの度に実家に帰って母の手料理を食べていたので、西岡の気持ちはよく分かる。
そう話してみせると、西岡も苦笑気味に頷いた。
「でも正直な話、引いただろ?コイツ何言ってんだって」
「引いてはないですよ。驚きはしましたけど。でも、やっぱり嬉しかったです。いっぱい褒めてもらえたので」
「じゃあ恥を忍んで頼んで良かったかな。透子と付き合うきっかけにもなったし」
何気なく発された言葉に、透子はビクリと肩を震わせた。今まさに、透子の脳内を占拠していた問題が解決したのではないだろうか。
昂りそうになっている心臓を宥めるように胸を押さえて、透子はおずおずと口を開いた。
「あの、その……私たちって付き合うことになった、でいいんですよね……?」
「……違うの?」
西岡は怪訝そうに眉をひそめる。透子は慌てて首と手をブンブンと振った。
「い、いえ!違わ、ないです……」
だんだんと言葉尻が小さくなっていき、透子は顔を赤くして俯いた。
鼻から諦めてはいたが、ずっと心のどこかでは彼と恋人になれたら、と夢想していた。けれどもそれは現実味が乏しく、まさに夢と言って相違なかった。
波間を揺蕩うように延々と彷徨っていた恋が、今になって突然拾い上げられたのだ。動揺するなと言う方が無理な話である。
鼓動が煩いくらいに脈打っている。熟した林檎のように真っ赤になった透子の頬に、西岡がクスリと笑って指を滑らせた。
「透子はすぐ赤くなるな」
揶揄うような物言い。しかし、その声は甘く優しい。
透子はなぜか、泣き出したくなるような気持ちに駆られた。
「それは、だって、好きな人の前ですもん。仕方ないです……」
消え入りそうなほど小さな声で、透子は自分の気持ちを正直に吐露した。緊張で胸が張り裂けそうだ。それでも溢れ出した感情を、心の奥へ押し込めることはできなかった。
「私も別に、料理は趣味って感じだっただけで、他はそれほどですよ」
「あんな上手いのが作れる時点で十分すごいよ。洗濯と掃除はなんとかなっても、料理は才能だからな」
くたびれた様子で言うその言葉はやけに実感がこもっていた。
なんでも、彼が小さい頃は祖母が通いで面倒を見てくれていたらしい。だが、彼が小学校を卒業する頃に祖母が腰を痛めてしまい手伝いに通えなくなってからは、なかなかに苦労したようだ。
家族全員で協力し、掃除洗濯は分担することでなんとか熟せたものの、料理だけは全員不得手でどうにもならなかった。そのため、レトルトや惣菜を中心とした食生活をずっと送っていたのだという。
「だから透子の弁当見た時、すごい食いついちゃったんだよなぁ。多分自覚はなかったけど、手料理に飢えてたんだと思う」
「ちょっと分かります、その気持ち。外食とかお惣菜って美味しいですけど、ずっと続くと飽きちゃいますもんね」
透子も一時期外食やレトルト続きだったことがある。
普段あまり食べないこともあって最初は新鮮だったが、毎日違う物を食べているはずなのに不思議とだんだん飽きてしまっていた。結局休みの度に実家に帰って母の手料理を食べていたので、西岡の気持ちはよく分かる。
そう話してみせると、西岡も苦笑気味に頷いた。
「でも正直な話、引いただろ?コイツ何言ってんだって」
「引いてはないですよ。驚きはしましたけど。でも、やっぱり嬉しかったです。いっぱい褒めてもらえたので」
「じゃあ恥を忍んで頼んで良かったかな。透子と付き合うきっかけにもなったし」
何気なく発された言葉に、透子はビクリと肩を震わせた。今まさに、透子の脳内を占拠していた問題が解決したのではないだろうか。
昂りそうになっている心臓を宥めるように胸を押さえて、透子はおずおずと口を開いた。
「あの、その……私たちって付き合うことになった、でいいんですよね……?」
「……違うの?」
西岡は怪訝そうに眉をひそめる。透子は慌てて首と手をブンブンと振った。
「い、いえ!違わ、ないです……」
だんだんと言葉尻が小さくなっていき、透子は顔を赤くして俯いた。
鼻から諦めてはいたが、ずっと心のどこかでは彼と恋人になれたら、と夢想していた。けれどもそれは現実味が乏しく、まさに夢と言って相違なかった。
波間を揺蕩うように延々と彷徨っていた恋が、今になって突然拾い上げられたのだ。動揺するなと言う方が無理な話である。
鼓動が煩いくらいに脈打っている。熟した林檎のように真っ赤になった透子の頬に、西岡がクスリと笑って指を滑らせた。
「透子はすぐ赤くなるな」
揶揄うような物言い。しかし、その声は甘く優しい。
透子はなぜか、泣き出したくなるような気持ちに駆られた。
「それは、だって、好きな人の前ですもん。仕方ないです……」
消え入りそうなほど小さな声で、透子は自分の気持ちを正直に吐露した。緊張で胸が張り裂けそうだ。それでも溢れ出した感情を、心の奥へ押し込めることはできなかった。