恋はひと匙の魔法から
腕を組んだ西岡が含み笑いをして、横目で意味ありげな視線を寄越してくる。
「なんですか……?」
「俺のためにモヤついてくれてる秘書さんが可愛いなと思っただけ」
「…………もう、からかわないでください」
これ以上彼の目を見ているとどんどん顔に熱が集まってきそうで、透子はスッと顔を背けた。すると追いかけるように、西岡の手が透子の頭を撫でる。骨張った指が髪の上を優しく滑るごとに、鼓動は高まっていった。
「伊勢福の本部長の我儘に付き合うくらいどうってことないよ。そんなことよりも、お土産何がいいか考えといて」
「いえ……そんな、お気遣いなく……」
「塩っぱいのか甘いの、どっちがいい?」
透子の遠慮はサラリと受け流された。お土産を買うのは決定事項らしい。彼の気遣いを嬉しく思う気持ちが恐縮を上回り、透子は顔を綻ばせる。
「じゃあ、塩っぱいのでお願いします」
「了解」
返事と共にポンポンと透子の頭を撫でると、彼の手はふっと離れていった。遠ざかる温もりが名残惜しくて、透子はつい彼の手の行く先を目で追ってしまう。
「今週末は、お兄さんの店の手伝いだっけ?」
「……あ、はい。バイトの子が全員休みになっちゃったらしくて、人手が足りないみたいで」
実家の定食屋の二号店を一昨年オープンした次兄からヘルプの要請が来たため、西岡へ今週は会えない旨を伝えていた。
自分でそう告げておきながら、透子の胸は切なさでチリチリと痛んだ。
来週の出張も合わせると、六日は会えない。このひと月あまりですっかり甘やかされて腑抜けた心は、そんな短い期間ですら耐えられなくなってしまったらしい。
けれども、寂しく思う胸中を西岡へ訴えたところで、出張が短くなるわけでもなければ、兄の手伝いがなくなるわけでもない。透子はその難儀な感情を胸の奥へ押し込め、笑顔を繕った。
「実家の手伝いはちょこちょこあったんですけど、兄のお店は初めてなんでちょっと楽しみなんです」
「そっか。でも頑張りすぎて無理はしないで」
座面に置いていた右手がギュッと握り込まれる。こちらを案じる彼の眼差しが面映い。透子は笑いながら頷いた。
「はい。けど西岡さんこそ無理しちゃダメですよ。ホテルでまで延々と仕事したりとか、お昼は食べないとか、そういうのダメですからね」
「厳しいな。分かった分かった」
「んもう……。でも、来週お会いできるの、楽しみにしてます」
控えめにそう告げると西岡はグッと眉間に皺を刻み、それから凭れかかるように透子の頭部に自分の頭を乗せた。
「……今すぐ家に帰りたい」
「ダメですよ」
耳元に落ちる重苦しいため息は、本気で仕事を嫌がっているようにも聞こえる。冗談に決まっているが、それでも透子との時間を大切にしてくれているようで嬉しさが募った。
頭部にかかる重みが心地良い。透子はさりげなく彼の肩に頭を預け、この穏やかな時に身を任せた。
「なんですか……?」
「俺のためにモヤついてくれてる秘書さんが可愛いなと思っただけ」
「…………もう、からかわないでください」
これ以上彼の目を見ているとどんどん顔に熱が集まってきそうで、透子はスッと顔を背けた。すると追いかけるように、西岡の手が透子の頭を撫でる。骨張った指が髪の上を優しく滑るごとに、鼓動は高まっていった。
「伊勢福の本部長の我儘に付き合うくらいどうってことないよ。そんなことよりも、お土産何がいいか考えといて」
「いえ……そんな、お気遣いなく……」
「塩っぱいのか甘いの、どっちがいい?」
透子の遠慮はサラリと受け流された。お土産を買うのは決定事項らしい。彼の気遣いを嬉しく思う気持ちが恐縮を上回り、透子は顔を綻ばせる。
「じゃあ、塩っぱいのでお願いします」
「了解」
返事と共にポンポンと透子の頭を撫でると、彼の手はふっと離れていった。遠ざかる温もりが名残惜しくて、透子はつい彼の手の行く先を目で追ってしまう。
「今週末は、お兄さんの店の手伝いだっけ?」
「……あ、はい。バイトの子が全員休みになっちゃったらしくて、人手が足りないみたいで」
実家の定食屋の二号店を一昨年オープンした次兄からヘルプの要請が来たため、西岡へ今週は会えない旨を伝えていた。
自分でそう告げておきながら、透子の胸は切なさでチリチリと痛んだ。
来週の出張も合わせると、六日は会えない。このひと月あまりですっかり甘やかされて腑抜けた心は、そんな短い期間ですら耐えられなくなってしまったらしい。
けれども、寂しく思う胸中を西岡へ訴えたところで、出張が短くなるわけでもなければ、兄の手伝いがなくなるわけでもない。透子はその難儀な感情を胸の奥へ押し込め、笑顔を繕った。
「実家の手伝いはちょこちょこあったんですけど、兄のお店は初めてなんでちょっと楽しみなんです」
「そっか。でも頑張りすぎて無理はしないで」
座面に置いていた右手がギュッと握り込まれる。こちらを案じる彼の眼差しが面映い。透子は笑いながら頷いた。
「はい。けど西岡さんこそ無理しちゃダメですよ。ホテルでまで延々と仕事したりとか、お昼は食べないとか、そういうのダメですからね」
「厳しいな。分かった分かった」
「んもう……。でも、来週お会いできるの、楽しみにしてます」
控えめにそう告げると西岡はグッと眉間に皺を刻み、それから凭れかかるように透子の頭部に自分の頭を乗せた。
「……今すぐ家に帰りたい」
「ダメですよ」
耳元に落ちる重苦しいため息は、本気で仕事を嫌がっているようにも聞こえる。冗談に決まっているが、それでも透子との時間を大切にしてくれているようで嬉しさが募った。
頭部にかかる重みが心地良い。透子はさりげなく彼の肩に頭を預け、この穏やかな時に身を任せた。