恋はひと匙の魔法から
 透子は結局、西岡へ英美里との関係を聞けないでいた。
 英美里が一昨日の夜、あの場にいたのは偶然でもなんでもない。間違いなく彼の家から帰る途中だった。その理由をわざわざ尋ねて自ら傷つきにいける芯の強さなど、透子は持ち合わせていなかった。
 
 きっと、彼は英美里とヨリを戻すことを選んだのだ。透子はもう振られるのを待つだけ。
 やっと成就した片想いの結末がこんなにも残酷だなんて、神様は己に何か恨みでもあるのかもしれない。
 透子は深くため息を吐き、肩を落とした。傷口に大量の塩を塗り込まれた気分だ。
 
「お料理が作れなきゃ、きっと一緒にいる意味なんてないよね……」

 彼は透子の料理に惚れ込んでくれた。料理ができないとなれば、魅力は半減どころかゼロに等しい。捨てないでと追い縋って懇願したところで、彼が頷いてくれるはずがない。
 そのことを自覚すると、胸にナイフを突き立てられたような痛みが走った。しくしくと血の涙を流す胸を押さえ、透子は不甲斐ない自分を写し取ったような卵焼きを無理矢理口に放り込む。

 今日から四日間、西岡は大阪に出張で不在だ。日程が延びた時は寂しさを覚えたものだが、今は、少なくとも週末までは顔を合わせずに済んでホッとしている自分がいた。この四日間は、現実を見据えるための猶予期間になりそうだ。

 透子はキュッと唇を噛み、悲壮な決意を固める。
 もし彼に別れを告げられても、煩わせることなくしっかりと受け止めなければ。彼のことが好きだからこそ、彼の中で綺麗な思い出として残りたい。
 そう己に言い聞かせるも、尚も胸の痛みは消えなかった。
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