恋はひと匙の魔法から
西岡への恋心を捨てるために一心不乱で働いたこの四日間は、恐ろしいほどに仕事が捗った。
再来週の役員会議で使用する資料も粗方作成し終え、商談資料も最新の情報に更新し、回答期日が来週以降のメールも全て返し終えた。翌週以降に訪問予定の企業へ持っていく菓子折りの手配もでき、忙しくて手がつけられていなかったダイレクトメールの整理すらも完了したほどだ。
そんな仕事ぶりが根詰めているように見えたらしく、席が隣り合う経営企画室のメンバーからは「大丈夫?」とたびたび声をかけられた。腫れ物に触るような扱いをされていると感じるのは、流石に気のせいだと思いたい。
週刊誌で報じられた西岡の結婚話は耳聡い人間なら既に知っているだろうが、透子との関係は誰も知るはずがない。
心配げに眉をひそめる同僚たちには笑って誤魔化したものの、目の前に横たわる問題から目を背けたくて仕事に打ち込んでいるのは事実だった。全くもってスマートに振る舞うことのできない情けない自分に、嗤笑が込み上げる。
西岡からは一度だけ『今週は行きたいところある?』とメッセージがきた。
何の変哲のない、いつも通りのメッセージに透子の心が揺らぐ。これからも彼の隣にいられると、そんな錯覚を起こしてしまいそうになった。
きっと、最後の機会に透子の希望を叶えてくれようとしているのだろう。そんな彼の半端な優しさが、まだじくじくと痛みを持つ透子の生傷に沁みた。
返信を打たなければ。そう思うのに、フリックしようとする親指は強張ったように動かなかった。
結局透子は、行きたい場所ではなく、『今週末も兄の店に行くことになってしまったので会えません。ごめんなさい』と体のいい断り文句を送ることにした。紛れもなく逃げである。
だが付け加えると、決してこれは嘘ではない。千晃から、ネックレスを忘れていっていたから取りに来いと連絡があったのは本当だった。
それは夕貴から誕生日プレゼントとして贈られたもので、毎日大切に着けていた物だ。それなのに、茫然自失になって忘れたことすら気付いていなかった。
再来週の役員会議で使用する資料も粗方作成し終え、商談資料も最新の情報に更新し、回答期日が来週以降のメールも全て返し終えた。翌週以降に訪問予定の企業へ持っていく菓子折りの手配もでき、忙しくて手がつけられていなかったダイレクトメールの整理すらも完了したほどだ。
そんな仕事ぶりが根詰めているように見えたらしく、席が隣り合う経営企画室のメンバーからは「大丈夫?」とたびたび声をかけられた。腫れ物に触るような扱いをされていると感じるのは、流石に気のせいだと思いたい。
週刊誌で報じられた西岡の結婚話は耳聡い人間なら既に知っているだろうが、透子との関係は誰も知るはずがない。
心配げに眉をひそめる同僚たちには笑って誤魔化したものの、目の前に横たわる問題から目を背けたくて仕事に打ち込んでいるのは事実だった。全くもってスマートに振る舞うことのできない情けない自分に、嗤笑が込み上げる。
西岡からは一度だけ『今週は行きたいところある?』とメッセージがきた。
何の変哲のない、いつも通りのメッセージに透子の心が揺らぐ。これからも彼の隣にいられると、そんな錯覚を起こしてしまいそうになった。
きっと、最後の機会に透子の希望を叶えてくれようとしているのだろう。そんな彼の半端な優しさが、まだじくじくと痛みを持つ透子の生傷に沁みた。
返信を打たなければ。そう思うのに、フリックしようとする親指は強張ったように動かなかった。
結局透子は、行きたい場所ではなく、『今週末も兄の店に行くことになってしまったので会えません。ごめんなさい』と体のいい断り文句を送ることにした。紛れもなく逃げである。
だが付け加えると、決してこれは嘘ではない。千晃から、ネックレスを忘れていっていたから取りに来いと連絡があったのは本当だった。
それは夕貴から誕生日プレゼントとして贈られたもので、毎日大切に着けていた物だ。それなのに、茫然自失になって忘れたことすら気付いていなかった。