恋はひと匙の魔法から
聞き分け良く別れなければ、なんて殊勝なことを考えていたくせに、実際は別れを引き延ばして醜く足掻こうとしている。
彼への恋慕は未だに透子の胸に居座っている。
情けないが、同時に仕方ないことだとも思った。簡単にこの想いを手放せるのなら、二年も実らない片想いなんてしていなかったに違いない。
ままならない自分の心の愚かさをどうしようもなく自覚して、透子は幾度となく肩を落とすのだった。
人間、集中していると時を忘れるというのは本当だったらしい。
会議もなく、誰からも話しかけられなかったため、ひたすらパソコンと向き合っていたのだが、ふと何気なく時計を見たら午後七時を過ぎていた。その前に時刻を確認した時は三時前だったような気がする。どれほど仕事に没入していたかを考えると、少し恐ろしくなった。
四時間以上もぶっ通しでブルーライトに眼球を晒していたこともあって、視界が霞んで目が疲労を訴えていた。シパシパと瞬きを繰り返して労っていると、ふと隣からキャスターの転がる音が聞こえ、誰かが着席したのか、椅子の軋む音が耳に飛び込んでくる。
「透子ちゃん、お疲れ」
隣の席へ目をやると、頬杖をついた水卜がこちらを窺っていた。思いがけない人物に声をかけられ、透子は軽く目を瞠る。CTOである水卜とのやり取りはメッセージ上が多く、こうして透子を訪ねてくるのは珍しい。
「お疲れ様です。どうしました?」
「いやぁ、経企のお姉さま方から密命を受けてさ。透子ちゃんこの後、暇?」
密命って何だろう……。
経営企画室の女性陣から何やらお願いをされたらしいが、透子のこの後の予定の有無と一体何の関係あるのか……。
釈然としないまま、予定は特にないことを正直に告げる。
「よし!じゃあ、飲み行こう」
「は、はあ……」
全くもって話の展開が読めずに、透子は呆気に取られた。
それに下戸の透子を飲みに誘っても楽しくないだろうに。
とはいえ折角誘ってもらってそれを断るのは忍びない。透子が酒に弱いのはきっと水卜も承知の上のはずだ。
そう考えて透子が頷くと、水卜は人好きのする笑みを浮かべ、すぐさま荷物をまとめるようにと促した。
彼への恋慕は未だに透子の胸に居座っている。
情けないが、同時に仕方ないことだとも思った。簡単にこの想いを手放せるのなら、二年も実らない片想いなんてしていなかったに違いない。
ままならない自分の心の愚かさをどうしようもなく自覚して、透子は幾度となく肩を落とすのだった。
人間、集中していると時を忘れるというのは本当だったらしい。
会議もなく、誰からも話しかけられなかったため、ひたすらパソコンと向き合っていたのだが、ふと何気なく時計を見たら午後七時を過ぎていた。その前に時刻を確認した時は三時前だったような気がする。どれほど仕事に没入していたかを考えると、少し恐ろしくなった。
四時間以上もぶっ通しでブルーライトに眼球を晒していたこともあって、視界が霞んで目が疲労を訴えていた。シパシパと瞬きを繰り返して労っていると、ふと隣からキャスターの転がる音が聞こえ、誰かが着席したのか、椅子の軋む音が耳に飛び込んでくる。
「透子ちゃん、お疲れ」
隣の席へ目をやると、頬杖をついた水卜がこちらを窺っていた。思いがけない人物に声をかけられ、透子は軽く目を瞠る。CTOである水卜とのやり取りはメッセージ上が多く、こうして透子を訪ねてくるのは珍しい。
「お疲れ様です。どうしました?」
「いやぁ、経企のお姉さま方から密命を受けてさ。透子ちゃんこの後、暇?」
密命って何だろう……。
経営企画室の女性陣から何やらお願いをされたらしいが、透子のこの後の予定の有無と一体何の関係あるのか……。
釈然としないまま、予定は特にないことを正直に告げる。
「よし!じゃあ、飲み行こう」
「は、はあ……」
全くもって話の展開が読めずに、透子は呆気に取られた。
それに下戸の透子を飲みに誘っても楽しくないだろうに。
とはいえ折角誘ってもらってそれを断るのは忍びない。透子が酒に弱いのはきっと水卜も承知の上のはずだ。
そう考えて透子が頷くと、水卜は人好きのする笑みを浮かべ、すぐさま荷物をまとめるようにと促した。