鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 あれよあれよという間に入学。パーティーの日を迎えた。
 正装に身を包んだアーロンにエスコートされ、会場に入る。
 デビュタントを意識した白いドレスも、髪を整え化粧をする人員も、全てアークライト家が用意した。
 マニフィカ伯爵家には使用人などいないも同然なので、本当に感謝しかない。

 その日のマリアベルは、妖精のように美しくて。
 彼女を「鮮血のマリアベル」「血に飢えた獣」などと呼んでいた男たちも、その美を前に息をのんだ。
 あらゆる人が、身なりを整えたマリアベルに視線をそそぐ。
 本当にあの鮮血姫か、あんなにきれいだったのか、と令息や富豪の息子たちがざわめいている。
 なんだか変な雰囲気だなあ、と思いながらも、マリアベルはなんとかパーティーを乗り切った。
 貧乏伯爵家の生まれではあるが、一通りのマナーは身に着けているのだ。

 会場をあとにして、馬車に乗り込んだマリアベルは、安心からはーっと息を吐く。
 なんと家まで送り届けてくれるとかで、彼女はアーロンとともにアークライト家の馬車に乗っている。
 ほっとして気が抜けたマリアベルとは対照的に、アーロンはどこか考え込んだ様子で。
 マリアベルは気が付いていなかったが、このときのアーロンは、相当に焦っていた。

 彼女は貧乏伯爵家の娘だから、衣装などもあまり用意できず、社交の場に出てくることは少なく。
 令嬢らしい美の追求よりも、魔法の特訓と魔物退治に夢中で。
 そんなことだから、マリアベルの美しさを知る者は、ほとんどいなかったのである。
 それが、パーティーで着飾った途端にこれである。
 マリアベルは、同年代の男たちの注目を、これでもかというほどに集めた。
 このままでは、他の男がマリアベルを狙うようになる。
 アーロンだけが知っていた、可愛くて頑張り屋なマリアベルが、この学園で男にかっさらわれてしまうかもしれない。
 自分の元を去り、別の男の手を取るマリアベルの姿を想像し、アーロンは恐怖した。
 だから、言ってしまった。


「……ベル」
「はい。どうしました?」
「……僕と、結婚して欲しい」
「はい?」

 この日、マリアベルは、「脳筋仲間ね!」と思っていた幼馴染に、突然プロポーズされた。
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