若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 あの場はチェストリーだけで十分だと判断し、アーティもジョンズワートとともに進む。
 元は宿屋であったため、部屋の数は多い。
 1つ1つドアを開けて中を確かめ、遭遇した悪党はみねうちで片づける。
 それを繰り返していくうちに――

「カレン!」

 ようやく、カレンに辿り着いた。
 腕や足を拘束され、口にテープを貼られて床に転がされている。ショーンは口をふさがれた状態で椅子に縛られていた。
 その部屋に配置されていた賊は、アーティが片づけ。ジョンズワートは、一目散に妻子の元へ向かった。
 彼女を拘束するロープはナイフで切り、口を塞ぐテープは慎重にはがした。ショーンも同様に解放する。
 縛られた跡は残っていたが、それ以外に暴力や暴行を受けた形跡はなかった。
 だとしても、相当に怖い思いをしたのだろう。カレンは浅く息をしながら、震えている。
 まだ幼いためか、ショーンは意外にも落ち着いており。ジョンズワートを見て「おじたん!」なんて言っている。息子よりカレンのほうが心配な状態だった。
 怯え切った彼女の姿に、ジョンズワートは心を痛める。
 彼女に向かって手を伸ばし、一度は引っ込めて――少し迷ってから、彼女の肩に触れた。
 触られたためか、彼女はびくっと身体を震わせる。

「カレン。僕だよ。ジョンズワートだ」

 努めて優しくそう言えば、カレンはおそるおそる顔を上げて、ジョンズワートと視線を合わせる。

「わーと、さま?」
「うん。怖かったね。もう大丈夫。大丈夫だから」
「わーとさま。わーとさま、わーと、さま……。っ……う、うう、ああ……」

 ジョンズワートの姿を見て、安心したのだろうか。彼女の緑の瞳からは、どっと涙があふれだした。
 泣きじゃくる彼女を、ジョンズワートが抱きしめる。
 そうしてから、自分が触れてはまずかったかと思ったジョンズワートだったが――カレンは彼にすがりつき、自らその胸に身を寄せた。

「怖い目に遭わせてごめん。もう、大丈夫だから……」
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