若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「もう一度言うよ。カレン。僕と結婚して欲しい」

 カレンを諦めることは、できなかった。
 
 カレンへの恋心を自覚したときのジョンズワートは、まだ10歳にも満たなかった。
 こんなにも時が経っても。彼女に避けられ続けても。ジョンズワートの気持ちは変わらなかった。
 ここまできたら、認めるしかないだろう。自分は、いつまで経ってもこの人のことが好きなのだと。
 本人が自覚しているかどうかは定かではないが――カレンは、男性にとても人気がある。
 公爵家の男につけられた、それなりの大きさの傷があったって、多数の縁談が舞い込んでくるのだ。
 このまま時が経てば、他の男に持っていかれてしまう。
 そんなの、絶対に嫌だった。
 カレンが他の男と並ぶ姿など見たら、どうにかなってしまう。

 だからジョンズワートは、卑怯だとわかっていながら、あることをした。

 手を伸ばし、カレンの前髪に触れる。
 カレンがびくっと身体を揺らしたが、ジョンズワートが手を引っ込めることはなかった。
 そのまま前髪をかきわけ、彼女の額に――自分がつけた傷に、指を滑らせた。

「……カレン。どうか、僕と結婚して欲しい」
 
 言葉にはしなかったが、カレンにもジョンズワートの言わんとすることは伝わっただろう。
 ――結婚という形で、傷をつけた責任を取らせて欲しい。
 こうしてしまえば、もう、カレンに逃げ道はない。

「……はい」

 カレンは、ジョンズワートの求婚を受け入れた。


 なんとしてもカレンを妻としたかったジョンズワートは、自分がつけた傷を利用して、彼女を頷かせた。
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