若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 別に、ジョンズワートとサラが寝室に入っていくところを見たりしたわけではない。
 でも、カレンとジョンズワートは別の部屋を使っているから。
 もしも「そういうこと」があっても、カレンはなかなか気がつけない。
 元々知っていた二人の仲の良さと、初夜以降なにもないことが、カレンをひどく不安にさせていた。
 身分のある人が使用人の女性に手を出すというのも、正妻と愛する人が別だというのも、珍しくはない話なのだ。

「奥様? なにか気になることでも?」

 カレンがぼーっとしていたせいだろうか。サラが心配げに覗き込んでくる。

「い、いえ! なんでもないのよ。ただ、少し疲れているみたいで」
「……嫁がれたばかりですものね。私にできることがあれば、なんなりとお申しつけください。旦那様からも、奥様の力になるよう強く言われておりますから!」
「強くって、そんな」

 あなたと夫の不貞を疑っていました、なんて言えるはずもなく。
 カレンは笑ってその場を濁したのだが。

「いえ、本当に……。本当に、強く言われておりますので……」

 そう言うサラは、げんなりし、どこか諦めたような目をしていた。
 長年この家に勤めるサラは、ジョンズワートがカレンを求め続けていたことを知っている。
 8年もろく話してない、会ってすらもらえない人にそこまで執着するってどうなの? と若干の恐怖を感じているぐらいだった。
 そのジョンズワートが、「カレンを頼む」と言ってきたのである。
 主人の願いも、嫁いできたカレンのことも、蔑ろになんてできない。 
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