若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 一方カレンは、やってしまった、突然なんてことを、と顔を赤くしたり青ざめたりしながら公爵邸の廊下を歩いていた。
 ジョンズワートは、同行など望んでいないはずなのに。
 勢いであんなことを言ってしまった。
 

 ジョンズワートはカレンに触れこそしないが、それ以外の面では、カレンを大事に扱っていた。
 公爵夫人としての仕事については、新米奥様のカレンにしっかりサポートをつけたうえで、裁量を持たせてくれる。
 期待や信頼をされている、と思えた。
 服、アクセサリー、食べ物なども、カレン好みのものを見繕っては度々プレゼントしてくれる。

 外出だって、先のやりとりのように、護衛さえ確保できればほぼほぼカレンの要望が通る。
 その護衛というのも、腕利きの者ばかり複数名用意されるのだ。
 必ずといっていいほどカレンに同行するのは、嫁入り後もカレンの従者を続けるチェストリー。
 彼はカレンを守れるよう十分な訓練を受けていたが、デュライト公爵家に来てからは、更に対人戦闘能力に磨きをかけた。ジョンズワートの指示によるものだ。
 もう一人、高確率で護衛を務めるのは、ジョンズワートの右腕でもあるアーティ。
 彼は伯爵家の三男。家は兄たちに任せ、早い段階でジョンズワートの下についたそうだ。二人は同い年で、親友でもある。
 ジョンズワートにとって大変重要な人物だというのに、カレンにつけてしまうのである。
 アーティを出せないときだって、ジョンズワートの信頼と強さの両方を兼ね備えた人物が護衛として選ばれる。

 カレンはデュライト公爵に愛され、大事にされている妻だった。……夜のことさえ知らなければ、誰もがそう思うだろう。
 ジョンズワートに大切にされていると、カレンも理解している。
 だがどうしても、初夜の一度きりで放置されていることが、引っかかるのだ。
 貴族なのだから、当然、カレンたちの婚姻には子を作れという意味も含まれている。
 なのに、ジョンズワートは慣習に沿っての初夜しかもうけず、次がないまま何ヶ月も経過してしまった。
 大事にされているのに、求められてはいない。
 カレンはもう、ジョンズワートがなにを考えているのかわからなかった。
 求めていないなら、いっそ、冷たくしてくれたらいいのに。
 責任を取って結婚しただけの、お飾りの妻として扱ってくれたらいいのに。
 カレンはそんなことを考えるようになっていたが、ジョンズワートはいつも優しかった。
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