若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 ディナーのコースには、ワインがついていた。
 ジョンズワートは酒に強いが、カレンはそうでもない。
 カレンの分はノンアルコールに変えてもらうかどうか悩み、本人にも確認し、今回は二人とも同じワインを出してもらうことにした。
 彼女はそこまでは言わなかったが……ジョンズワートと同じものを、飲みたかったのである。

 美味しい食事とともにワインを飲んだ彼女は、元からふわふわした心地だったのがもっとふわふわしてしまって。
 コース料理の後半に差し掛かる頃には、えへへ、ふふふ、とぽやぽや笑っている状態になっていた。
 他の男にこんな姿を見られたらたまったものではないが、今は二人きりだし、帰りも馬車だから心配ない。ジョンズワートは酔った妻を温かく見守っていた。

「わーとさま、今日はたのしかったですねえ」
「うん。僕も、すごく楽しかった」
「また、一緒におでかけしましょうねえ……」
「もちろん。すぐにでも次の予定を立てたいぐらいだよ」
「えへへ、嬉しいです、わーとさま」

 食事を終え、店を出る頃になってもカレンはまだ足取りがおぼつかない。
 個室を出る前に、ふらついて転びそうになったのをジョンズワートが支えた。
 腕を掴んで、引き寄せて、抱きとめて。二人の視線が、ばちっと絡んだ。
 そのまま、互いに見つめ合う。
 このとき二人の頭に浮かんだのは、キス、の二文字。
 夜景の見えるレストランで、個室に二人きりで、密着して。
 昼食後から始まったデートのしめとして、ここでキスをするのは無理のない流れだろう。
 
 ジョンズワートは、彼女の桃色の唇に口づけるかどうか悩んで――彼女の頭を撫でるにとどめた。
 二人がキスをしたのは、慣習に沿って行った初夜のときのみ。
 ジョンズワートだって、大好きな人にキスをしたかったが、今の彼女は酔っている。
 実質二回目のキスは、彼女の意識がしっかりあるときにしたかったから、ぐっと耐えた。
 この一日で彼女との距離が縮まったとは思っていたが、酔っているところにキスは、まだ早いと考えたのだ。
 それに、この様子だと、キスをしたところで翌日のカレンが覚えているかどうかわからない。
 ここまで彼女との仲を深めることができたのだ。キスをするチャンスは、きっと、これからいくらでもある。
 二度目は両者の合意のもと、記憶に残る形で。
 そう考えて、ここは引いたジョンズワートであったが――これがのちに、カレンを苦しませる材料となる。

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