若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 公爵家の当主と、その妻の侍女が二人きりで会っているなんて。やはり彼らは恋仲なのだろうか。
 今まではたまたま見なくて済んだだけで、二人はこうして逢瀬を重ねていたのだろうか。
 そんな風にも思ってしまったけれど、きっと、カレンの考えすぎだ。
 離れていた期間が長すぎて、不必要に彼を疑うようになってしまったのだろう。
 だって、一緒に出かけたときのジョンズワートは、あんなにも嬉しそうだった。
 あれでカレンのことはなんとも思っていなくて、本当に愛しているのはサラだなんて言われたら、ジョンズワートは相当な役者だ。

 サラはジョンズワートとの付き合いが長く、今はカレンの侍女も務めている。
 彼女に聞きたいこと、話したいことはたくさんあるだろう。
 ジョンズワートもサラも、自分が公爵家で不便していないかどうか、よく聞いてくれるから。
 カレンについて話している可能性だってある。

 カレンは、祈るような気持ちで二人を見つめていた。
 家の主人と妻の侍女として話しているだけであって欲しい。
 しかし、カレンの願いもむなしく。

「あ……」

 ジョンズワートとサラが近づき――二人の影が、重なった。
 カレンには、二人がキスをしているように見えた。
 妻である自分には、そんなことしてこないのに。求められたのは、初夜の一度きりだというのに。
 デートのときだって、自分にはそんなことしなかったのに。
 ジョンズワートは、サラにキスをしたのだ。


 これは誤解であり、あまり他の者に聞かれたくない内容だったため、小声でも聞こえるよう近づいただけ。
 話していた内容も、カレンのためになにをしたらいいか、というものだった。
 しかし、カレンがいた角度からは、二人がキスをしたように見えてしまった。
 ついこのあいだ、夜景の見えるレストランで、キスをしてもらえなかった一件があったから。余計に「キス」という行為を意識してしまったのだろう。
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