若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 その日の晩。カレンはジョンズワートの寝室へ向かった。
 二人がキスする場面を見てしまったカレンは、もう我慢できなかった。
 カレンはサラに嫉妬していたし、焦ってもいた。
 昼間の件について追求する勇気はなかったが……。自分にだって触れて欲しい、求めて欲しいという思いが、爆発した。
 ジョンズワートがカレンに触れようとしないなら、カレンの方から誘えばいいのである。
 恥ずかしくてたまらないし、なんだか惨めな気持ちにもなったが、これ以上、ただ待っているだけではいられなかった。

 何度も深呼吸してから扉をノックし、名乗る。
 ジョンズワートは少し驚いた様子だったが、カレンを部屋に招き入れてくれた。

「どうしたんだい、こんな時間に」

 仕事も終わり、もう休んでいたのだろう。ジョンズワートは、就寝前の楽な装いで。
 寝衣をまとったジョンズワートを見るのは、初めてだった。
 こんな時間、と彼は言うけれど。夫婦であれば、夜を共にするのはなにもおかしいことではない。
 これまで夜の営みがなかった事実を突きつけられたような気がして、カレンは俯いた。
 この部屋には彼のベッドがあるというのに、カレンが座らされたのはソファ。
 ベッドには、あげてくれないのだろうか。

 もう、このまま逃げ帰ってしまいたい。でも、意を決してここまで来たのだ。なにもせず引き下がりたくなかった。
 先日のデートは、自分だけでなくジョンズワートも楽しんでくれたと思っている。
 ああやって過ごすことができた今なら、彼もカレンのことを受け入れてくれるかもしれない。
 ぐっと顔を上げ、向かいに座るジョンズワートを真っすぐに見つめて、彼の名を呼んだ。

「ワート様」

 それからすっと立ち上がり、ジョンズワートに近づく。
 彼の前までたどり着いたら、身にまとっていた夜着を、はらりと落とした。
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