若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 彼がどれだけカレンを想っていたか知っているから、アーティもジョンズワートの好きにさせた。
 酒ぐらい、いくらでも飲んだらいい。気が済むまで飲んで、たくさん泣けばいい。そう思っていた。
 今すぐこの村から立ち去れない気持ちだって、理解できる。
 アーティも酒を飲み、ジョンズワートに付き合った。

 そんなこんなで、小さな村の食堂で、昼間っから酒を飲み倒す男の二人組が誕生した。
 少々飲みすぎではあるが、今はお昼時もはずれていて、客の少ない時間帯だ。
 だからか、ジョンズワートがべそべそ泣きながら酒をあおりまくっていても、注意などはされなかった。

「うう……カレン……」

 もう何杯飲んだのかもわからなくなった頃。ジョンズワートは猫背になって両手でグラスを持ち、呻きにも近い声をあげていた。
 いくらなんでも、そろそろとめた方がいいのではないか。アーティがそう思い始めたときだった。

「こんにちは!」

 アーティの耳に届いたのは、懐かしい声。これは……カレンのものだ。
 続いて、幼い子供の元気な挨拶と、それよりはだいぶ低い男の声も。
 カレン、チェストリーと、その息子の登場である。
 店員との会話の内容からして、食材を卸しに来たようだ。

 まずい。これは非常にまずい。
 このままでは、カレンとジョンズワートが出会ってしまう。
 とにかく、自分たちの顔を隠さなければ。
 ジョンズワートの頭を抑えつけてしまおう。そう思い手を伸ばそうとしたときには、彼は既にテーブルに突っ伏していた。
 べろべろに酔っていたとはいえ、カレン大好き歴20年の男。
 カレンが来たことに気が付き、自ら顔を隠したのだ。声だってもう出していない。
 それを確認すると、アーティも深くフードをかぶり、顔が見えないようにした。

 幸い、カレンたちはちらりとこちらを見ただけで、接触してくる様子はない。
 ただの酔っ払いだと思っているのだろう。
 このまま静かにやり過ごそう。
 そう、思っていたのだが。

「おじたん、だいじょーぶ?」

 カレンの息子がジョンズワートに近づき、話しかけてしまった。
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