若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 ジョンズワートは、とてつもなく焦っていた。
 カレンの住む村から離れることができず、未練たらしく酒を飲んでいたら、カレンたちがやってきてしまった。
 カレンの声が聞こえると同時に、酔いなどさめた。

 既に下げられたものもあるというのに、テーブルはあいたグラスだらけ。自分でも、もう何杯飲んだかわからない。
 だというのに、一瞬でさあーっと冷えてしまった。
 元より、周囲の者が引くレベルに酒に強いジョンズワート。これだけ飲んでも、酔いが引いた。
 とにかく隠れなければと、咄嗟にテーブルに突っ伏して顔を隠すという判断ができるぐらいには。さあーっと。

 カレンたちは、この店に食材を卸しにきたようだ。
 幸い、彼女たちがジョンズワートとアーティに興味を持つ様子はない。
 旅の者が酒を飲んでいるだけだと思われているのだろう。
 このままやり過ごすことができる。そう思ったのに。
 カレンの息子が、ととと、と小走りで近づいてきてしまった。

「おじたん、だいじょーぶ?」

 優しい子なのだろう。見知らぬ男を心配して、テーブルの横でこてんと首を傾げている。
 こうも近づかれてしまったら、その子の方を見てしまうのも無理はないだろう。
 顔を上げないようにしながらも、ちらりと子に視線をやる。
 カレンとチェストリーの息子のはずの彼は――

「……!」

 幼い頃の自分に、そっくりだった。
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