若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「カレン!」
「お嬢!」

 チェストリーの手から抜け出し。息子を抱き上げ、カレンは駆け出す。
 ジョンズワートとチェストリーが自分を呼んでいるが、振り返ることはしなかった。
 ショーンが驚いていること、不安がっていることがわかる。けれど、止まることも、事情を説明することも、できなかった。


 しかし、この状態で、ジョンズワートがなにもせずカレンを見送るだけなわけもなく。

 15歳のとき、結婚の申し出を断られた彼は、カレンを追うことができなかった。
 けれど、今は。
 ここまでやってきて、自分そっくりの子供まで見た、今は。
 ジョンズワートは、カレンを追いかけた。チェストリーもそれに続く。



 店に一人残されたアーティは、突然のことに動揺しつつも、チェストリーの言動を思い返していた。

「あいつ、俺たちが来るとわかっていたのか……?」

 ジョンズワートと再会したカレンに対して、チェストリーは大丈夫だと繰り返していた。
 ショーンーーあの幼子のことだろう――にとって悪いことにはならないとも。
 もしもチェストリーが本当のカレンの夫で、あの子の父親だったら、そんなことは言わないだろう。
 ジョンズワートを引き離し、カレンとともに逃げるはずだ。
 だが、彼は。カレンとジョンズワートに話して欲しいように見えた。

「そうか、あの手紙。お前だったんだな、チェストリー」
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