若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 カレンは必死に走った。しかし、カレンは特別足が速いわけでもない女性で。幼子まで抱いている。
 対するジョンズワートは長身の男性。運動神経もいい方だ。
 歩幅も速度も、ジョンズワートが圧倒していた。

「カレン。待って、カレン!」

 大した距離も稼げず、カレンはあっという間にジョンズワートに捕まってしまう。
 カレンは肩を掴まれても抵抗を試みた。
 しかし、ショーンを抱いたままでは、たいしたことはできなかった。
 ほぼ同時に追いついたチェストリーも、彼女を落ち着かせようと試みる。

「やだ、やめて、離してください!」
「カレン、落ち着いて。乱暴する気はないから、一度落ち着いて話を……」
「離して!」
「お嬢、ジョンズワート様は、貴女にもショーンにも危害を加えるつもりはありません。ですから……!」
「どうしてそんなことが言えるんです!? ショーンのことが知られてしまったのですよ!?」
「それも問題ありません。ショーンのことが知られても、困る者はいません!」
「ですが……!」
「本当に、なんの問題もないのです! カレンお嬢様!」
「っ……!」

 チェストリーの言葉に、カレンはぐっと唇を引き結び、瞳には涙を溜めながらも、抵抗をやめた。
 落ち着いてくれたのかと思い、男二人がほっとしたのも束の間。
 カレンは、きっと男たちを睨みつけた。

「……チェストリー。突然のことだというのに、驚いていないのですね。まるで、ジョンズート様がここに来ることをわかっていたみたい」
「それは……」
「あなたが情報を流したの? 私がここにいると」
「…………はい。それが、あなたたちのためになると、思ったからです」
「……そう」

 カレンの瞳は、暗く濁っていた。
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