若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 俯き、どこか諦めた様子の彼女は、逃げ出したときからずっと抱いていたショーンをおろす。
 大人たちのぎすぎすした雰囲気に、ショーンも戸惑っているようだった。
 信じていた従者に情報を流されたカレンも、本人の許可を得ずジョンズワートに彼女のことを知らせてしまったチェストリーも、両者気まずく、言葉が出ない。
 自分の「両親」が喧嘩をしたと思ったのか、ショーンなどもう泣きだしそうな状態だ。
 そんな中、最初に動いたのはジョンズワートだった。
 涙をこらえるショーンに近づき、屈んで視線を合わせ。努めて優しく、幼子に話しかける。

「……きみの名前は?」
「……ショーン」
「そうか、ショーン。初めまして。僕はジョンズワート。ジョンズワート・デュライト」

 ジョンズワートの大きな手が、まだ幼いショーンの頭を撫でた。
 本当の父親と息子の、初めての出会い。初めての会話。
 年齢が違うから、今の二人の顔が一緒とまではいかないが。
 同じ色を持つ二人が向き合い話す姿は、なんだかとても自然なもののように感じられた。
 先ほどまでつらそうにしていたショーンも、今はジョンズワートを見て青い瞳をぱちぱちさせている。

「じょん……らい……? んー……」
「ワートでいいよ」
「わーと、おじたん」
「おじさんかあ……」

 おじさん扱いに苦笑しつつも、ジョンズワートは穏やかな表情を浮かべている。
 彼がショーンに向ける瞳は、愛しい者を見るときのそれだった。
 初めて会う他人の子供に向けるものだとは、到底思えない。
 もう、わかってしまったのだろう。この幼子が、自分の息子であると。
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