若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 カレンたちから離れたジョンズワートは、あてもなく村を歩いていた。

「カレンは、ここで暮らしていたのか……」

 ホーネージュとは違う、穏やかな気候。
 緑豊かで、空気も綺麗だ。もっと気分が晴れやかだったら、思わず深呼吸をしてしまうところだろう。
 成長したカレンはずいぶん元気になったが、それでも、普通の人と比べれば体の弱いほうだった。
 ホーネージュの厳しい冬は、こたえただろう。
 気候だけでいっても、カレンにとってはラントシャフトの方がよい場所であると思える。
 
 気がつけば、ジョンズワートはカレンたちが住む家の近くまで来ていた。
 丘の上に建つ、可愛らしい、小さな家。
 あそこから出てきたときのカレンは、確かに幸福だったのだ。
 少し見ただけのジョンズワートにだって……いや、ずっと彼女のことが好きだったジョンズワートだからこそ、それがよくわかる。
 デュライト公爵家にいたときの彼女は、いつもどこか曇っているように見えた。
 少しでも元気になって欲しくて、できる限り外出も許可したし、彼女が好みそうなものもたくさん贈った。
 一度きりだったが、デートもした。
 それでもカレンの心は晴れなかったのだろう。自分から逃げ出したことが、それを証明している。
 でも、ここで最初に見た彼女は――

「……きみは、ここにいた方が幸せなのかな」

 そんなことを考えて、ジョンズワートは小さく息を吐いた。

「でも、チェストリーは……」

 あの様子だと、自分に手紙を送ってきたのはチェストリーだろう。
 主人想いの彼のことだ。
 カレンとジョンズワートが再会すること、実父である自分とショーンが出会うことが二人のためになると思って、手紙をよこしたはずだ。
 この村についてからジョンズワートが考えた筋書きには、正解と間違いが混在していた。
 おそらくだが……。カレンが自分から逃げた、という部分はあっていた。
 けれど、カレンとチェストリーは恋仲ではなく、主人と従者という関係だった。
 仮に恋仲の二人が逃避行をしたのであれば、ジョンズワートに手紙が来るはずがない。
 ……チェストリーは、カレンとジョンズワートは再会すべきだと考えて動いたのだろう。
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