若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 けれど、本当にそうなのだろうか。
 カレンは、この地で、チェストリーと共に子を育てていた方が、幸せなのではないだろうか。
 そんなことを考えて俯くと、彼の柔らかな金の髪が、さらりと揺れた。

 しばらくそうしていたジョンズワートであったが、いつまでもここにいたら、カレンが家に帰れないことに気が付く。
 行く当てもないから、とりあえずはアーティと酒を飲んでいた店に向かった。
 それなりの時間が経っていたが、アーティはまだそこにいた。
 カレンと一緒にいたはずのチェストリーも、アーティと同じテーブルについている。

「どうしてきみが、ここに? カレンと一緒にいたんじゃ……」
「……お嬢に拒絶されて、仕方なくここであなたを待っていました」
「きみも、ダメだったのか……」
「もうお気づきかと思いますが、あなたに手紙を出したのは俺です。……ただ、お嬢の許可はとっていませんでした。それがお嬢を傷つけて、拒絶されました。一緒に逃げてくれた従者が勝手に手紙を送っていたなんて、お嬢からしてみれば、裏切りみたいなものですよね」
「……でもそれは、カレンのことを想ってのことだったんだろう?」
「そのつもりでしたが……。お嬢を傷つけたことは、確かです」
「……」
 
 男二人。揃って黙りこくって、暗いオーラを纏っている。
 両者、カレンに拒絶されたショックで力をなくしているのだ。
 そんな中、アーティがおずおずと手を挙げる。
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