若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「あー、あのさ。落ち込んでるところ悪いんだけど。じゃあ今、奥様の近くには誰もいないんだよな?」

 少しの沈黙ののち、俯いていた男二人がばっと顔を上げる。
 そう。本人に拒絶されてしまったとはいえ、今、カレンのそばにはまだ幼いショーンしかいないのである。
 あの状態のカレンを幼子と二人にしておくのは、いかがなものだろう。
 しかし、ジョンズワートとチェストリーが行っても、また同じことになるだけだ。
 でもやっぱり、放ってはおけない。
 カレンに近付けない男二人が出した答えは――

「アーティ。お前が行け」
「お嬢を頼む」

 だった。
 なんでだよ、と言ってやりたいところだったが、確かに、この状況だと自分が一番適任だろう。
 そう考えたアーティは、ため息をつきながらも、カレンの元へ行くことを決めた。

「俺だって、大丈夫かどうかわからないぜ? でも、まあ、行ってくるよ。チェストリー、奥様がいそうな場所に心当たりは?」

 カレンを探すため、アーティが立ち上がるのとほぼ同時に、店のドアが勢いよく開く。
 普通の客が、こんな開け方をしないだろう。ただ事ではない雰囲気に、揃ってドアのほうを見やる。

「チェスター! ここにたのか! 大変だ、カレリアが……」
「は? カレリアがなんだって?」

 開いたドアの向こうにいたのは、ぜえぜえと息を切らす男。どうも、チェストリーを探して駆け回っていたようだ。
 チェストリーの姿を確認した彼は、呼吸も荒いまま、なんとか声を絞り出した。

「カレリアが、さらわれた」
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