若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「なっ……!」

 チェストリーが黒い瞳を見開く。
 カレンが、さらわれた。
 そう伝えてきたのは、チェストリーたちと親しくしている男だ。こんな嘘をつくとは思えない。

「お嬢が……さらわれた……?」
「お嬢? カレリア……お前の奥さんだよ! さっき見たんだ。ごろつき共に連れていかれるのを!」

 のどかな村ではあるが、悪党というものはどこにだっている。
「カレリア」は美人であるが、特別稼ぎがいいわけでも、地位があるわけでもない、普通の男の嫁。誘拐しようと考える者は少ないだろう。
 しかし、「カレン」は。ホーネージュ王国のデュライト公爵の妻で、彼の息子を生んだ女性。それも、公爵様が必死に探し続けている人だ。さらう価値は、十分にある。

 店から逃げ出したカレンに追いついたあと。
 チェストリーたちは、ついヒートアップして、大きな声を出してしまった。
 当然、外である。
 あのときは自分も必死で、そこまで気が回らなかったが……。
 自分たちのやりとりを聞いて、カレンの正体に気が付いた者が現れたことぐらいは、簡単に想像できた。
 カレンが誘拐されたという話は、本当なのだろう。

「旦那様! すぐにお嬢をたすけ……に……」

 今すぐカレンを助けに行かなければ。そう思ったチェストリーは、ばっとジョンズワートの方へ向き直ったのだが。
 ジョンズワートは、俯いて、身体を震わせていた。
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