スイート×トキシック

 にっこり微笑んでみせる。

 さっと青ざめてうろたえる彼女はいい(ざま)だった。

 散々颯真をつけ回しておいて、いざ自分がその立場に置かれたら怖がるなんて。

(でも……芽依ちゃんの怯えた顔、かわいい)

 もっと困らせてみたい。苦しめたい。
 そんな衝動が湧いてくる。

 何だか少しだけ、好きな人を追い詰めていた彼女の感覚が理解できた気がした。

 けれど、この愉悦(ゆえつ)にも似た感情は持ち合わせていないのだろう。
 芽依はただ単に、純真な恋心をこじらせている。

 俺の場合は“仕返し”という気持ちもどこかにあった。
 颯真を困らせた分だけ、いじめてあげたい。

「好きな人のことは何でも知りたい。でも、知ってるのは俺だけでいい。だから────」

「……っ」

 焦ったようにあとずさった芽依が、ふいにたたらを踏んだ。
 ふっと力が抜けたのを見て、一歩踏み込む。

「おっと」

 とさ、と伸ばした腕で受け止めた。
 もう逃がさない。

「あさくら、く……」

 その声は音にならず、腕の中で芽依が目を閉じる。

 完全に薬が効いたらしく、全体重を預けて寄りかかってきた。

「大丈夫。いい夢見せてあげるから、ちょっとだけ眠っててね」

 最後にはすべて奪うけれど、それまでは。
 芽依のすべてを受け入れて、肯定して、愛して、望むままにしてあげるから。

 ────意識を失った芽依を横抱きにして車まで運んだ。
 後部座席に寝かせ、彼女の荷物を足元に置く。

 ころん、と鞄から苺ミルクのペットボトルが転がり落ちた。

(あとで回収すればいっか)

 自分の鞄を助手席へ載せて運転席に乗り込む。
 パーカーのファスナーを上まで上げておいた。

 制服姿は何かと目立つ。
 運転していて不審に思われたり、たまたま警察に声をかけられたりしたんじゃたまらない。

 免許だってないんだし、そんなことをきっかけにこれまでの余罪(よざい)が明るみに出たら困る。

 “万が一”があってはいけないんだ。
 いままでそうしてうまくやってきた。



 芽依を監禁部屋へ運び入れると、手錠と結束バンドで拘束した。
 さらにガムテープで口元を覆っておく。

「さてと……」

 部屋と玄関に鍵をかけて再び家を出る。
 早く車を返しにいかなきゃ。

 しばらくは芽依も目覚めない。
 鍵もかかっていることだし、起きたとしてもあの拘束じゃ逃げられない。

 難なく車を元に戻すと、再び徒歩で帰路についた。
 スペアキーを眺める。

『……おまえ、俺の車使ったか?』

 前に一度、颯真にバレた。
 また何かの拍子に疑われるかもしれない。

 しばらく車も必要ないし、スペアキーの扱いには気をつけないと。
 見つからないよう、家の中に隠しておこう。

 玄関を開けると、羽織っていたパーカーを脱いだ。

(芽依ちゃん、早く起きないかなぁ)
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