スイート×トキシック

 もう起きてるかも、そうだといいな、なんて期待しながら監禁部屋へ向かう。

 ドアを開けると、意識を取り戻した芽依が拘束されたまま座り込んでいた。

 俺を捉える瞳は混乱と恐怖に染まりきっていて、指先がぞくりと興奮で痺れる。

 人を純粋な好意で追い詰めていた彼女に分からせてあげたい。
 たとえ無自覚でも、愛や恋心は時として“鎖”になるんだって。

 これはすべて、きみが招いたことだから。

「おはよう、芽依ちゃん」

 明るく微笑みかける。
 ────そうして、芽依との生活が始まった。



     ◇



 ソファーに倒れ込んだまま目を閉じた。

(色々あったけど、芽依との生活が一番長く続いたなぁ)

 最後まで飽きなかった。
 終わらせるのが惜しいくらい。

(あんなふうに死んでいったの……芽依が初めて)

 俺の本性や本当の目的を目の当たりにしたのに、逃げも恐れもしないで。
 あんなに、幸せそうな顔で────。

「最初の頃は、必死で抵抗したり逃げようとしたりしてたのにね」

 (あざけ)るように呟いたつもりが、声は思いのほか寂しげに滞空(たいくう)して消える。

 そういう反抗的な態度はほかの女と変わり映えしなかったけれど、途中から行動が予測不能になって面白かった。

 目を開けると、弾みをつけて起き上がる。

 そうでもしないと何だか身体が重たくて、どんどん沈んでいくような気がした。

「…………」

 俺が人殺しだって気づいても、それでも好きだと、そばにいると言ってくれたのも、芽依が初めてだった。

(ちゃんと俺のことを好きになってくれたか何度も試したけど……必要なかったかもね)

 そんなことを考えながら、再び監禁部屋へ戻る。
 いまは布団が横たわっているだけ。

 洗濯するために外したカバーには、まだ香りが残っている気がする。

 俺のか、彼女のか、もう分からないけれど。

「あんなふうにさ、一緒に眠ったのも初めてだったんだよ。……芽依って大胆なとこあったんだね」

 あの夜は、確かに何の思惑もなくただの俺として接せられたような気がする。
 等身大の自分でいられた。

 手を繋いだまま眠りに落ちたからか、目覚めるまで一時(いっとき)も寂しくなかった。
 優しい温もりが、心の空洞を満たしてくれたのだ。

 芽依のペースに飲まれて悔しくも思ったけれど、嫌じゃなかった。
 正直、悪くなかった。

(……変だね)

 これは俺が見せる夢なのに。
 俺が与える感情のはずなのに。

 気づかないうちに手に力が込もって、布団に渦のようなしわが寄った。

 ────俺の颯真に対する感情は確かに愛にほかならないし、そもそも恋心なんて愛情の紛いものだと思っていたのに。

 ()まない喪失感に、ずき、と心が痛む。
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