スイート×トキシック

 カーテンの隙間からは明るい光がこぼれている。
 涙で光の粒が散って眩しかった。

「先生……」

 夢でよかった、と思う反面、落胆してもいる。
 朝倉くんに監禁されたのは現実そのもので、助けが来る気配もなかった。

 何だか喉がからからで、ほとんど無意識のうちにビニール袋に手を伸ばしていた。

 喉も渇いたし、お腹もすいた。

 疑い続ける余裕も、いつまでも突っぱねていられる意地も、すっかり喪失していた。

 取り出したペットボトルのキャップを捻る。
 やりづらくはあるけれど、かちっと手応えを経て開けることができた。

 ぐい、と一気に水を(あお)る。

 すぐに死に至るような薬も毒も入っていないはずだ。
 少なくともいまの段階では。

 わたしへの殺意があるのなら、こんなところへ誘拐して監禁する、なんて回りくどいことはしない。

 包装を破ると、無心でサンドイッチを頬張った。
 そのうち、だんだんと頭の中の霧が晴れていく。

 今朝、無理やり飲まされたのはきっと睡眠薬だったのだろう。

 唇にまだ感触が残っているような気がして、思い出すたび息が詰まった。

 ────食べ終えると、空になったビニール袋に包装を入れて結んでおく。

 何となく重たい身体を引きずるようにして窓際に寄った。
 壁に添えた手を握り締め、拳で叩く。

「誰か……」

 深く息を吸い込んだ。

「誰か助けて!」

 出しうる限りの大声で必死に叫ぶ。

 静寂しか返ってこなくても、手の側面が真っ赤に染まっても、喉が枯れるまで何度も何度も叫び続けた。



 こぼれる光が暖色に変わった頃、遠くから鍵を回す音が聞こえてきた。

 足音が近づいてきたかと思うと、すぐにドアが開かれる。

「ただいま、芽依ちゃん。会いたかったよ」

 力なく壁にもたれかかって座り込んでいたわたしの元へ、朝倉くんは一直線に歩み寄ってきた。
 そっと屈むと首を傾げる。

「ちゃんといい子にしてた? ……あれ、また泣いたの?」

 充血した双眸(そうぼう)を覗き込まれて、ふいと顔を逸らす。

「関係ないでしょ……」

「あーあ、声も掠れてる。そんなに叫んでたの? 防音だし意味ないよ」

 思わず唇を噛み締めると、ふと彼の手が伸びてくる。
 慈しむように優しく頭を撫でられるものの、わたしの身体は強張った。

 それを見た朝倉くんは、どこか寂しげに目を伏せる。

「……ねぇ。ごめんね、今朝は強引なことしちゃって」

 予想外にしおらしく謝られて、戸惑ってしまう。

 そのままリュックを探ると、取り出した何かを差し出してきた。
 わたしの好きな、いちご味のクッキーだ。
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