スイート×トキシック

第3話


 こんこん、とドアがノックされる。

「おはよー」

 にっこりと爽やかな笑顔をたたえた朝倉くんが、制服をまとって現れた。

 自分の仕出(しで)かしたことに対する罪悪感や動揺は、微塵(みじん)も感じられない。

 彼は床に横たわるわたしとビニール袋をそれぞれ眺める。

「あれ、食べてないの? 遠慮しなくていいって言ったのにー」

「……お腹すいてない」

「へぇ、そう? いつまで我慢出来るかな」

 悠々と歩み寄ってきて、わたしの前に屈み込む。

 一層笑みが深められたけれど、その瞳はどこか冷たい色をしていた。

「俺を信用しないと辛いだけだよ。ここではね」

「……っ」

 悔しいけれど、それは確かにそうだった。

 まともに食事をとることも、眠りにつくことも、今のわたしには出来ない。

 そんな最低限の生命線すら、彼に左右されている。
 彼の手によらなくても、このままではすぐに弱って死んでしまうだろう。

「疑い深い芽依ちゃんにもう一度教えてあげる。毒も薬も何も入ってないよ」

 ……本当、なのかな。
 信じていいのかな。

 彼みたいに見通せないか、じっとその双眸(そうぼう)を見上げてしまう。

 朝倉くんは動じることなくその視線を受け止めていた。

 それからふと、はさみを取り出す。
 ぱちん、と結束バンドを断ち切った。

「え……」

「さ、お手洗い行っとこ。俺がいない間、君はここから一歩も動けないからね」

 改めて思い知らされる。

 わたしは何も出来ない。
 ここでは、あまりに無力で。



「……朝倉くん、学校行くの?」

 お手洗いから部屋へと戻る途中。
 昨晩のように目隠しをされたまま廊下を歩きながら、はたと口をついた。

 見えないけれど、前を歩く彼が振り向いた気配があった。

「うん。なに、寂しい?」

「そんなわけ……」

 思わず反論しかけて、慌てて言葉を切った。
 下手なことを言うべきじゃない。

「ちょっと、意外だっただけ」

 というか、驚いた。

 わたしを監禁しておきながら、何食わぬ顔でいつも通り登校しようとしているという事実に。

 それほど余裕に満ちているのだろうか。

 バレない自信がある?
 それとも、わたしに逃げ出されない自信?
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