スイート×トキシック
充足感も幸せも置き去りにしたまま、朝倉くんのために生きるなんて。
それを奪う権利は、彼にはないのに。
(会いたい……)
先生に会いたい。
そんな強い思いに突き動かされ、鍵を開けるなり勢いよくドアを開けた。
壁に背を預けながらスマホをいじっていた朝倉くんが、驚いたように顔をもたげる。
「芽依────」
目隠しをしていないことに気がついた彼が言い終わらないうちに、握り締めていたそれを思いきり投げつけた。
「わ」
その隙に駆け出すと、真っ暗な家の中を探り探りで進んだ。
壁にぶつかったりしながら、勘を頼りに玄関を目指す。
「ちょっと、芽依ちゃん……!」
いつもより余裕を失った声には苛立ちが混じっていた。
捕まったら終わりだ。きっと、ただでは済まない。
(どこ、に……)
生まれたての小鹿より頼りない足取りで、適当な部屋へ一旦転がり込んだ。
いざ動き出してから、浅はかだったかもしれない、と後悔が込み上げてくる。
間取りも分からないのに飛び出したって仕方がない。
朝倉くんから遠ざかることを優先してしまった。
わたしがいま玄関側に来られていないということは、朝倉くんは玄関前で待ち構えていればいいだけ────袋小路だ。
このまま見つからずにやり過ごせても、彼を動かさないことには外へ出られない。
暗室に隠れたまま、焦りと緊張を募らせる。
もうあとには引けない。
どうにか逃げ出して、先生に会いにいかなくちゃ。
(どうしよう? どうしたら……)
張り詰めた空気の中、息を殺すと自分の速い心音が響いた。
そのときだった。
ふいに眩しい光が部屋に浮かび上がる。
びくりとしながらそちらを向くと、そこには一台のパソコン。
吸い寄せられるように近づいて息をのむ。
「な、に……これ……」
画面の光で照らし出されたのは、壁の一角を埋め尽くすほど大量の写真。
どれもわたしを盗撮したもののようだった。
デスクの上に置かれたメモには、わたしのSNSのアカウント名やIDが書き殴られている。
(ずっと監視されてた……?)
ぞっと肌が粟立ち、寒気がした。
思わずあとずさると、おののいたまま周囲を見回す。
わたしが閉じ込められていた部屋よりいくらか狭い洋室。
備えつけのクローゼットを開けてみた。
「え?」
ハンガーパイプにかけられているのはどれも女性ものの服ばかり。
ふわ、と甘いのに隙のない柔軟剤の香りが漂っている。
(どうしてこんなもの……)