スイート×トキシック
朝倉くんの家族のものだろうか。
そう思ったけれど、あんな異常なパソコン周りを目にしたあとでは腑に落ちない。
生活感のない部屋だし、とにかく気味が悪くて恐ろしい。
「芽依ちゃーん、どこ?」
ふいに聞こえてきた彼の声に、心臓を鷲掴みにされる。
とっさにクローゼットを閉めた。
(どうしたらいいの)
きっと玄関前で待ち構えているのだろう彼の態度は暢気なものだった。
どうすれば、そこから動いてくれるだろう。
ふとパソコンに目をやる。
それを使って誰かに助けを求めようかとも思ったけれど、パスワードが分からなくて開けない。
(スマホがあれば連絡できるのに)
そう思ったと同時にひらめいて顔を上げる。
そうだ、それだ。
恐怖と緊張で高鳴る鼓動を落ち着けるように息をつき、意を決して口を開く。
「もう、通報したから……!」
一拍置いて、不可解そうな「え?」という声が返ってくる。
「スマホ見つけたの。それで警察に連絡した」
一世一代のはったりが通じるように、半ば祈りながらそう続ける。
しん、と肌を刺すような静寂に包まれた。
「……は?」
ややあって、思いもよらないような低めた声が返ってきた。
確かな苛立ちが感じられる。
「ねぇ、冗談でしょ。さすがに笑えないんだけど」
続けざまに声とともに微かな足音が響く。
やった、と内心ほっとした。
焦って冷静さを欠けば、慌ててわたしを捜しに動くだろうと踏んだのは正しかったみたい。
「どこにいるの? 俺が悪かったよ。怖がらせちゃって……本当ごめん」
どうやら、わたしの居場所を正確に把握できているわけじゃないようだった。
足音も気配も一直線じゃない。
(あとはうまくすれ違って玄関に向かうだけ)
暗闇の中、ドアの前を彼が通り過ぎたのが分かった。
暴れる心臓の音が聞こえてしまわないかひやひやしながら、入れ違うようにそっと部屋を出る。
朝倉くんが来た方向へ向かうと、玄関ホールへと突き当たった。
「!」
暗くてはっきり見えないけれど、確かにドアがあることが分かる。
思わず駆け寄ると取っ手を掴んだ。
だけど、がちゃがちゃと手応えに阻まれて動かない。
(鍵……!)
気が急いてしまうのをおさえられないまま、慌ただしくサムターンを回す。
再び取っ手に手をかけたものの、なぜかドアは開かなかった。
「何で……!?」