スイート×トキシック
「芽依のこと何か知らないか、って。あの日一緒にいたじゃん、俺たち」
十和くんに誘拐された日、確かにわたしたちは先生と話した。
気づいてくれた。
先生はわたしの失踪の糸口に、気づいてくれていたんだ。
「それで……?」
「知らないって答えたよ。俺と帰ったことはバレてなかったから、ひとりで帰った芽依がその途中で何かに巻き込まれたのかもー、って思ってるみたい」
どうして、と聞き返しそうになって慌てて飲み込んだ。
どうして一緒に帰ったことまでは掴めていないんだろう。
警察もそうなのだろうか。
校門前には防犯カメラがあって、十和くんといるわたしが映っているはずなのに。
人通りだってあった。
それなのに、誰の目にも記憶にも留まらなかったというの?
(でも……そっか)
周囲の人が気づく可能性の方が低い。
あのときは誰も、わたしたちのことなんて気にかけもしなかったはずだ。
風景の一部だった。
わたしも同じだ。あの場に誰がいたのかなんて覚えていないし、知らない。
それこそ、誘拐の瞬間を目撃でもされない限りは────。
そういえば、わたしはどうやってここまで連れてこられたのだろう。
抱えたりしたらきっと人目につくはず。
それ以前に、学校からどれくらい離れているのだろう。
(抱えたまま運べるほど近い……?)
気になることは色々あるものの、彼にはひとつとして聞けない。
「先生、芽依のこと心配してたよ。かなり顔色悪かった」
「本当……?」
こんな形ではあるけれど、先生が心配してくれているという事実を少なからず嬉しいと思ってしまった。
わたしを気にかけてくれているんだ。
先生の意識の内側に、わたしがいる。
それだけで、何だかひどい目に遭ったことも痛い思いをしたことも、報われたような気がしてくる。
そのためなら耐えられる。
「心配することなんて何にもないのに。ね?」
十和くんが至極当然のように言ってのけた。
「え……」
「だって俺たち、幸せに暮らしてるじゃん」
とろけるような甘い笑顔を向けられたけれど、うまく返すことができなかった。
さっきみたいに彼の望み通りのわたしを演じればいいのに。
そうするべきだと頭では分かっているのに。
先生の話を聞いてしまったからか、揺られた感情が落ち着かない。
頬が強張ってうまく笑えなかった。
◇
出られるかもしれない可能性が目の前にぶら下がってきて、なかなか寝つけない。
布団の下に隠したフォークの存在を何度も確かめながらようやく眠りに落ちると、夢が終わらないうちに夜が明けた。
朝の支度とご飯をつつがなく終えて、制服姿の十和くんと相対する。