スイート×トキシック
そうかもしれないけれど、わたしに咎める権利はそもそもなかった。
これで許してくれた、ということだろうか。
「十和くんが謝る必要ないよ」
「そう? でも痛かったでしょ」
「それは……うん」
痛かったし、苦しかった。
ということは、十和くんも同じ思いをしたということ。
(そうだよね)
信じていた好きな人に嘘をつかれて裏切られたら────。
先生にそんなことをされたら、わたしだったら耐えられないかもしれない。
「……怒って当然だと思う。わたしが悪いんだもん。本当にごめんね」
「芽依……」
意外そうに揺らいだ彼の瞳が煌めいた。
肩をすくめたわたしの手を取ったかと思うと、おもむろにポケットから何かを取り出す。
小さな鍵だった。
「え……」
戸惑っているうちに手錠が外される。
自由になった手首を十和くんは愛しそうに撫でた。
「こんなこと言ったら誤解されるかもしんないけど、芽依がそう言ってくれて嬉しい。分かってくれたんだね、本当の意味で」
彼の思いの丈も、ここでの生活のあり方も、土台にあるのは“我慢”じゃない。
十和くんの求めているものが、ようやく分かったような気がした。
「……時間、大丈夫?」
「あ、そうだね。そろそろ行かなきゃ」
はたと立ち上がった彼が「ちょっと待ってね」と一度部屋から出ていく。
戻ってきたとき、その手には綺麗に畳まれた制服があった。
「これ、一応返しとく。それじゃ、行ってきまーす」
────部屋と家に鍵をかけて十和くんが出ていくと、手渡された自分の制服を眺める。
ブラウスにもスカートにもしわひとつない。
カーディガンは以前よりも手触りが柔らかくなっているような気がする。
すん、と鼻を寄せた。
ついさっきまでそこにいた彼の存在感が、香りを通して強くなる。
それなのに、抵抗感や嫌悪感は息を潜めたまま。
(……どうして)
別に、打算のもと友好的に接しようと思ったわけじゃない。
十和くんを受け入れたわけでももちろんない。
けれど、尖っていた敵意が何だか嘘みたいに丸くなってしまった。
異常だと思っていた彼の行動には理由があると分かって、筋が通っていると納得して、本当の意味で初めて理解が及んだ。
裏切られたショックを想像して、その気持ちに共感できてしまった。
絶対に分かり合えないと、ついさっき思ったところだったのに。
日が傾いた頃、十和くんが帰ってきた。
読んでいた本を閉じ、部屋のドアが開くより先に立ち上がる。
「おかえり」