【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜
淡い黄色の光の塊がいくつか降りてきて、鉢の中の花を包み込む。光が消えた直後、葉っぱの一部が緑色を取り戻した。けれど僅かな変化でしかなかった。
「まただめだ。上手くいかないな」
「――気を取り直して再チャレンジですわ。大丈夫、オリアーナ様ならきっと成功します」
「ふ。ありがとう、頑張るよ」
しかし、何度挑戦しても成功しなかった。精霊たちに鮮明なイメージを送れていないのかもしれない。
「そういえば、この花はなんの花だろう」
「アネモネ……でしょうか」
「アネモネか」
目を閉じて、ジュリエットの燃えるような鮮やかな瞳のように赤い花が咲くのを思い浮かべ、もう一度精霊たちに依頼する。すると……。
「咲きましたわっ!」
目を開くと、枯れていた茎がまっすぐ上を向き、赤からピンクのグラデーションの花を無数に咲かせ始めた。生き生きとした花が、風に揺れている。
課題の成功に安堵するオリアーナ。アネモネの花が咲く鉢をジュリエットに差し出して微笑む。
「これ、あげるよ。君の瞳を思い浮かべたら成功したんだ。君の瞳はこの花と同じくらい、綺麗だ」
「…………!」
彼女の瞳の奥が微かに揺れる。彼女は細い指で花弁を撫でながら、目元を緩めた。
「とても嬉しいですわ。大切にします。この花も、あなたが綺麗だと言ってくださった目も」
二人は、神木にもたれかかりながら芝生の上に座った。ジュリエットがこちらを覗きながらおもむろに言った。
「オリアーナ様。最近何かお悩みでしょう」
「……! よく……分かったね」
「ふふ、長い付き合いですからね。この一週間、お顔色が暗いですわ」
「……」
「レイモンド様のことを心配なさっていらっしゃるのですか? それとももっと別のお悩みでしょうか」
彼女は本当に、オリアーナのことには聡い。ジュリエットの言う通り、この一週間――具体的にはセナとの一日目の修行の日から悩んでいる。セナへの特別な感情を自覚したことと、彼にはすでに想い人がいることを。
今は自分の恋愛事情なんかより、レイモンドの身体のことが最優先だ。けれど、頭では分かっていてもどうしても悩んでしまう。
「私……好きな人が、できたんだ。できた――というよりやっと気がついた、という方が正しいのかな」
たぶん、セナのことはずっと昔から好きだった。鈍感なオリアーナがそれを恋だと自覚してこなかっただけで。ジュリエットはくすりと優美に笑った。
「セナ様のことですわね」
「……! どうしてそれを……」
「オリアーナ様のことならなんでもお見通しですわ。そう……恋をするのは素敵なことです。おめでとうございます、オリアーナ様」
「はは、ありがとう。でも早速失恋しちゃったんだけどね」
「まぁ……失恋ですか?」
「うん。セナにはもう、他に好きな人がいるんだよ」
「…………」
ジュリエットは物言いたげな顔を浮かべ、「それはないと思いますけれど」と聞こえない声で呟いた。彼女は穏やかに微笑んで言った。