聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 三千花は最初こそ暗い顔をしていたが、散歩を始めて数日もすると少しは生気をとりもどしてきた。
 散歩のおかげだけではないだろうが、晴湖はホッとした。

 晴湖は事件のこともアルウィードのことも話題に出さなかった。
 彼女は主に自分の話をした。

「私、キャバで働いてたの。あなたがキャバをどう思ってるか知らないけど、私はプライドを持って働いてたわ」
 晴湖は三千花の返事がなくても続けた。

「キャバって、知ってると思うけど、基本的にはお酒を出してお話するようなところね」
 三千花は黙って聞いていた。

「髪型は毎日きっちり決めて、ドレスを着て。ドレスは自費だったりレンタルだったりいろいろなんだけど。浴衣の日ってのもあったわねー」
 だから晴湖はこちらのドレスも上手に着こなしているのかな、と三千花は思う。

「キャバでは年齢が高い方なんだけど。サバ呼んで若く言ってたわ」
 晴湖はにっこり笑って言った。

「お客様もそれなりについてたのよ?」
 晴湖はイタズラっぽく三千花を見る。晴湖なら人気があるのがわかる気がした。

「お客様を楽しい気分にして帰して上げるのが私の仕事。お客様がどんなコンディションで来るかわからないから、毎回ガチャ引くようなもんよ」
 大変そうだな、と三千花は思う。

「怒ってるときも悲しいときもあるんだし。見極めて、言葉を選んで。それだけじゃ上っ面になるから、態度にもでるようにして、もはや女優じゃない? って思うときもあったわ」
 クスクスと笑う晴湖。三千花はうつむいた。

「お仕事、無断欠勤になっちゃいましたね」
 三千花が言うと、晴湖はからっと笑った。
「そうね。だけど飛ぶのは……無断欠勤とか無断退職とかはよくあることだから、大丈夫よ」
 何が大丈夫なのか、三千花にはわからない。

「よくあることなの。事情がある人が多いから。だから気にしないで」
 優しさに、三千花は申し訳なくなる。

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