聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「体調悪くて休むときに連絡するじゃん? 黒服に信じてもらえなかったりするのよね。サボりたいときに体調不良って言う人が多いから。ま、私もやっちゃうんだけどね」
 えへへ、と晴湖は笑う。

「黒服ってわかる? キャバで働いてる男の人ね。これはわかるか」
 三千花は無言でうなずいた。

「黒服との恋愛は禁止なんだけど、以前、同僚の子が黒服とできちゃって。男の子が罰金払って、結局ふたりとも辞めたのよ。今はゆるくなってきてるみたいなんだけどね」

 恋愛で罰金が発生することがまるで異世界の出来事のようだ。だから晴湖はこの別世界でも理性を保つ強さがあるのだろうか。

「あえて付き合って女の子が辞めないようにするところもあるのよ。ちょっと怖くない? 私は怖くてすぐにその店は辞めたわ」
 人の心を利用するのを良しとしない、そんな晴湖のポリシーが見えた気がした。

「指名してくれたお客様の名前が思い出せないことがあって。あのときは本当に焦ったわー。黒服に聞いたり周りに聞いたり、それでだめならお名刺ほしいなーって言ったり。前にも渡したって言われたら、永久保存用にもう一枚ほしいの、なんて言ってみたり」

 テクニックがいろいろあることにも驚いた。焦った顔など見せず、華麗にお客様をさばいていったのだろう、と三千花は思った。

「晴湖さんはすごいですね」
「そう言ってもらえるとうれしいわ。お客様と話を合わせるためにいろんな本を読んでネットも見て勉強したのよ」
 仕事のために勉強なんて、三千花の中でキャバクラにそんなイメージはなかった。

「アフターも同伴もめんどくさいけど、稼ぐためには、とがんばってたの。いい人が相手ならいいんだけどね。お金ないから店の外で会おうって言い出だす人もいて、だったら来るな! って言いそうになったわ」
 晴湖はクスクスと笑った。つられて三千花も少し笑った。

「私とは違う苦労があるんだろうとは思ってましたけど、そんなに大変だとは思いませんでした」
 三千花には着飾ってお客さんとお酒を飲む、というくらいの知識しかなかった。

「お金払ってるんだからって横暴な態度になる人もいるしねー。良くも悪くも人間の本性が出るところだと思うわ」
 ずっと歩きながら、そんな話をした。


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