聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 その日、バラ園の中に入ろうとしたときだった。
 つるバラを()わせた入口のアーチをくぐると、道はゆるやかにカーブする。その先に、リーンウィックとエルンレッド、もう一人の男性がいた。

「変身しかできないくせに」
 笑いを含んだ男性の声が聞こえた。

「そういう言い方はよくないと思います」
「お前なんかに言われたくない!」
 エルンレッドとリーンウィックが言い返す。

「……この道はやめましょう」
 いつもは口を(はさ)まないリグロットが二人に言う。

 かなりまずいらしい、と察した二人は引き返そうとしたのだが。

「そこにいらっしゃるのは聖母様方ではないですか?」
 声をかけられた。
 とっさに三千花は晴湖を見た。晴湖も三千花を見る。

「あちらは第一王子のレオルーク殿下です」
 リグロットは観念したように、三千花たちに言った。

 直後、レオルークは瞬間移動のように二人の目の前に現れた。
 三千花と晴湖は驚いて一歩を下がる。

「聖母候補の三千花様と晴湖様です」
「はじめまして。姫様方」
 レオルークは片足を引いて右手を自身の胸の前に引き、左手を伸ばし、頭を下げた。

 晴湖はカーテシーで挨拶(あいさつ)を返す。三千花は慌ててそれにならった。

「転移魔法は見たことありませんか?」
「……ないわ」
 晴湖が答える。

「そうでしたか。異世界には魔法がないのでしたね」
 にこやかに彼はそう言った。

 レオルークは美丈夫という言葉がぴったり合いそうな男性だった。たくましい体に男らしい顔つきで、アルウィードにはあまり似ていない。顔は父親に似て、母親ゆずりの黒い髪と青い瞳をしていた。

 ちょっと変わっている、と王妃は言っていた。エミュリーは女の敵のように言っていた。
 三千花は少なからず緊張した。

「リグロット、私は聖母様方と少し話したいだけだ。邪魔するなよ」
 ニタリ、と口の端だけで笑う。

 リグロットは返事をしなかった。
 三千花が意外に思って見ると、彼はレオルークに警戒の目を向けていた。

「美しき美姫二人の前では太陽も(かす)んでしまいますな」
 レオルークが言うので、三千花は再び彼を見た。普通の笑顔に戻っていた。

「あらやだお上手」
 ほほほ、と笑って応じる晴湖。三千花は「美しき」と「美姫」で美が被っているのが気になった。頭痛が痛いみたいだ。それとも指輪の翻訳(ほんやく)のせいだろうか。

「おや、信じていらっしゃらない」
 三千花の様子に、レオルークは愉快そうに目を細める。

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