聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「おや、どうなされた?」
 レオルークは笑い含みに言う。

「いえ、あの……何も……」
 答える三千花の足は震え、心臓はバクバクしていた。

 だけどレオルークをそのままにしてはいけないと、頭の中で警告が鳴る。
「嫉妬……でもないか。震えてる? 怖いのに前に出てくるって、かわいいなあ」
 レオルークはクスクスと笑った。三千花の頬に手を伸ばす。

 三千花は得体のしれない恐怖で身を縮めた。アルウィードのときには感じなかった恐怖だ。

 触れる寸前、リグロットがその手を取った。

「レオルーク殿下、あちらにロレッティア様がおいでです」
 リグロットの指し示す方向に、彼の婚約者ロレッティアが歩いていた。

 レオルークは鼻白んで手をおろした。

 ロレッティアは三人に気がつくとすぐにこちらに向かって歩いてきた。

 今日もロレッティアは美しかった。ダークネイビーのドレスに控えめな銀糸の刺繍が彼女を引き立てる。濃い茶金の髪は華やかに巻かれていた。

「レオルーク様、王妃殿下がお探しです」
「母上が? どうせ大したことないんだよな」
「婚姻の儀式での殿下の衣装のことです」
「君と母上で決めてくれたらいいんだよ」
「そんなわけには参りません」

「せっかく聖母様方との会話を楽しんでいたのに」
 レオルークが言うと、ロレッティアは三千花と晴湖を憎々しげに睨んだ。

 誤解です! と三千花は叫びたかった。
 あなたの結婚を邪魔する気は毛頭ありませんから!

「まずは第一王子としての責任を果たしてくださいませ」
 ロレッティアが言うと、レオルークは肩をすくめた。

「好きで第一王子に生まれたわけではないけどね。婚約者殿、参りましょうか」
 レオルークが手を差し伸べると、ロレッティアは優雅にその手を重ねる。

「では失礼。いずれまた」
 レオルークがそう言うと、一瞬で二人の姿が消えた。転移魔法を使ったようだ。


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