聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 リグロットは大きくため息をついた。
「アルウィード様に報告しなくては……」
 誰に言うともなくつぶやく。

「なんか怖かった……」
「そうね、なんだか得体がしれない感じがしたわね」

 三千花が小声で言うと、晴湖も小声で返した。
「今日はもう散歩は中止いたしましょう」
 リグロットの言葉に、晴湖は反論する。

「ダメよ、こういうときこそ気分転換が必要なのよ」
 晴湖は三千花と手を繋いでそのままバラ園を歩き始める。

 嫌なところで記憶を留めないように。記憶を上書きしてしまえるように。
 晴湖は三千花にそう言った。

 バラの香りに包まれ、晴湖と歩いていると、さきほどのレオルークとのやりとりが頭から薄れていく。

 手を繋がれて、三千花はなんだかドキドキした。
 晴湖の手が温かくて、それだけで涙が出そうだった。優しさが、三千花のひび割れた心の隙間に染み渡って行くようだった。

「……ありがとうございます」
 三千花は礼を言った。

 毎日きてくれたこと。

 三千花を励まそうとしてくれたこと。

 すべてのことに対しての気持ちをこめて言った。

「こちらこそ、ありがとう」
 晴湖はにっこり笑って答えた。

 晴湖はすごい、と三千花は改めて思う。
 しなやかに強く、優しい。
 彼女こそ聖母なのではないだろうか。

「あの四阿(あずまや)で休憩しましょう」
 つるバラで囲まれた小さな四阿(あずまや)を指して晴湖が言った。

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