聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
* * *
「待って、ドレスは走りにくいのよ」
晴湖は息を切らして、バラ園の中をスタスタ歩くリーンウィックを追った。
「どうしてついてくるの!」
イライラと彼は怒鳴る。
「心配だからに決まってるじゃない」
真面目で正直なエルンレッドではリーンウィックの気持ちを余計に逆なでしてしまうのでは、と思ったのだ。
コンプレックスに悩む彼を放っておけない気持ちもあった。
「さっき会ったばっかりなのに」
「それでも心配なのよ」
「あなたの勝手だ」
「普通は心配してくれた人にはありがとうって言うものだわ」
「押し付けじゃないか」
「押しつけが必要なときもあるのよ。今がそのときだと思ったわ」
「ああ言えばこう言う、すごいね」
リーンウィックがあきれる。
「褒め言葉と受け取っておくわ」
「褒めてない」
リーンウィックは顔をしかめた。
「あなたは悩みなんてなさそうだ」
「あら、悩みだらけよ。今はあなたがどうやったら元気が出るのか、悩んでるわ」
晴湖の言葉に、リーンウィックはため息をつく。
「あなたにはわからないよ」
「コンプレックスのつらさはわかるわよ。克服するまでにかなりの時間がかかったもの。あなたぐらいの頃には死にたいと思ってたわ」
ただコンプレックスがあっただけではない。付随する苦しみがたくさんあった。彼もそうなのだろう、と晴湖は思う。
「……大人になったらつらくなくなる?」
「克服したら、つらくなくなるわ」
晴湖の言葉に、リーンウィックは肩を落とす。
「なら、ずっとつらいままだ」
「そんなことないわよ。コンプレックスはときに強みになるのよ。自分が気づいていない魅力もあったりするし。私は強みにはできなかったから、消すことにしたわ」