聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜


 * * *
 

 シェリナは、上機嫌だった。
 ユレンディールが開けた窓をそのままにしていた。カーテンが風にゆれるのを見るたび、うっとりと思い出す。

 ようやく王族が会いに来た。彼は国王の甥にあたると聞いていた。
 しかも自分に惚れているかのように肩を抱き、微笑んだ。

「やっとだわ」
 やっと自分の価値を認めてくれる人が現れた。

 やはり自分の居場所はあちらではなくこちらだったのだ。
 では、名前もシェリナではなくこちら風に改めたほうがいいだろうか。
 彼女はうきうきと考える。

 またふわりとカーテンが揺れた。
 その直後、黒猫が部屋に飛び降りる。

「猫……」
 シェリナは顔をしかめた。黒猫なんて不吉な予兆と言われているではないか。

 だが、すぐに第四王子の噂を思い出す。よく猫に変身して城内に出没するという。
 王子なら歓迎だ。

 猫はその口に手紙をくわえていた。
 部屋を確認するように見たあと、猫はすたすたと室内を横切る。

 テーブルに手紙を置くと、青い目の黒猫はすぐに窓へと戻った。
 慌てて追いかけると、猫が壁の細い突起を伝って歩き去って行くのが見えた。ピンと立った尻尾の先がゆらゆらと揺れる。

「何よ」
 シェリナは唇をとがらせた。
 なんですぐに帰ってしまうのか。

 だけど、と思い直す。
 テーブルの上に残された手紙を開封する。

 そこにはシェリナの人生を左右する内容が書かれていた。
「やっと私のターンだわ」
 シェリナは心をときめかせた。

 手紙は誰にも内容を知らせないようにと書いてあった。
 侍女は部屋に戻らせたので、今は一人だ。手紙の存在すら彼女だけのものだ。

 手紙を封筒に戻すと急にぼろぼろと崩れ、原型をなくした。もう読むことはできない。

「これも魔法ね。すごいわ」
 シェリナは感嘆の声をあげた。
 彼女の胸は弾んでいた。未来は明るいものになるに違いなかった。


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