聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜


* * *


 アルウィードがいない今がチャンスだ。
 ユレンディールは三千花の部屋を訪れる旨、リグロットに告げた。

 彼は三千花はまだ落ち着いていないからと面会を拒否した。
 だが、ユレンディールが押し切り、三千花に会えることとなった。

 王族に忠実なのは美点でもあるが弱点でもあるな。
 彼は皮肉に笑った。


 * * *

 
 最近の三千花は午後に晴湖と散歩するのが日課になっていた。そのため、ユレンディールは彼女が帰ってきた直後を狙って訪問した。

 急な(おとな)いに、侍女は会わせるのを渋った。
 リグロットの許可があると言うと、エミュリーはようやく来訪を三千花に告げた。

 入室を許され部屋に入った瞬間、幻臭が彼を襲う。シェリナの部屋の臭いだ。
 だが、三千花の部屋は侍女によって完全に管理され、清潔に保たれていた。
 服も着替えてきた。あの臭いはもうするはずがない。

「体調はいかがですか?」
 花束を差し出し、ユレンディールはきいた。
「大丈夫です。キレイですね、ありがとうございます」

 三千花は困ったように微笑した。花束を受け取り、その匂いをかぐ。
「いい匂い」

「聖母様、おあずかりします」
 エミュリーは花束をあずかり、活けるために部屋を出た。

「大変でしたね」
 ユレンディールが優しく言う。

「でも思ったより元気そうでよかった」
 彼の口調がくだけた。三千花は曖昧(あいまい)にまた微笑した。

「アルウィードとも会っていないとか」
 会議で見たから、接見禁止は知っている。忍んで来たりはしていないのだろうか。

「まったく会ってません」
 その答えにユレンディールは驚いた。あれだけ彼女に固執していたのに、どういう風の吹き回しなのか。

 三千花はアルウィードが来なくなっても彼への面会を望んだことはないと聞いている。
 彼女が愛想をつかしたのなら、なおさら聖母の第一候補を手に入れるチャンスだ。

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