聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「いろいろとつらい思いをしたね」
 ユレンディールは三千花を抱きしめた。

「やめてください」
 三千花は体をこわばらせ、彼を見ようとはしない。

「気づいてると思うけど、アルウィードはもう来ない」
 三千花はビクッと体を震わせた。

「君を連れてきておいて放置するなんて。許せない」
 三千花は何も答えない。

「顔をあげて」
 ユレンディールは片手で三千花のあごを上げる。

 潤んだ瞳が彼を見上げる。
 花びらのような唇が、かすかに震えている。
 彼はその密に引き寄せられるように、唇を近づけた。
 が、三千花は顔をそむけて彼の渇きを拒絶した。

「あいつは来ないよ」
「そういう問題じゃないです」

「私のことは嫌い?」
「……好き嫌いを言えるほどのことは何も知りません」

「嫌いじゃないならいいんだ。結婚したあとに恋をする。そんな夫婦もいるのだから」
 ユレンディールは優しく囁く。

 貴族は見合い結婚が基本だ。愛のない政略結婚。嫌いじゃない相手ならば御の字程度。
 ましてや王族である彼は相手を選ぶことなどできない。

 彼にも政略結婚の話は今までにいくつもあった。だが、同様に政治的な理由で婚約には至らず、この年齢になった。

 今回、三千花に結婚を求めることができるのは例外中の例外だ。

 彼女が聖母候補だからこそだ。

 仮に彼女が聖母だった場合、国王にしてみれば王族の誰かと結婚してくれればそれでいいのだ。

 好ましい相手と結婚する機会など、彼女を逃したらもう二度とない。アルウィードと正式に婚約していない今ならまだ間に合う。

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