聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜


 * * *


 エミュリーがドアをノックしようとしたとき、
「やめてってば!」
 叫び声が聞こえた。

 思わず扉を守る兵士と顔を見合わせる。が、兵士はすぐに目をそらした。
 中にいるのは王族だ。めったなことは起きないはずだし、乱入して気分を害してはいけない。

 だが、三千花の声は切羽つまっているように聞こえた。
 彼女はエミュリーが尊崇(そんすう)してやまないアルウィードの大切な人。

 エミュリーは思い切ってノックしたあと、あえて返事を待たずにドアを開けた。
「素敵な花瓶がありましたよ〜」

 言いながら入ったエミュリーは、自分が見た光景に驚いて手から力が抜けた。花瓶が滑り落ちる。

 ガシャン、と大きな音がした。

 三千花とユレンディールが、二人してエミュリーを見て固まった。

 二人はソファに倒れ込み、ユレンディールが三千花のスカートの中に手を入れている。
 とんでもないところに入ってしまった。

「し、失礼しました!」
 慌ててエミュリーはドアを閉めて廊下に出る。

 出てから思う。
 今の対応、これで合ってるの?

 困惑して兵士を見ると、彼は必死に目をそらしていた。
 エミュリーに頼れる者はいなかった。


 * * *


 激情は、訪れたときと同じく急激にユレンディールから去った。

「申し訳ありません」
 ユレンディールは三千花から離れて立ち、ため息をつく。

 エミュリーが現れなければ、三千花の心に深い傷を負わせてしまうところだった。

「帰ってください」
 三千花の声が氷のように冷たく耳に届く。
 彼を睨むその目には涙が浮かんでいる。

「謝罪は後日あらためて」
「必要ありません」
 三千花の声は震えていた。必死に泣くのを抑えているような、その声。

 ユレンディールは再びため息をつき、部屋を辞した。


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