聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜


 * * *


 ユレンディールが去ったあと、三千花はアルウィードがあれでも手加減していたことに気づいた。
 ユレンディールは力が強く、抵抗はまったくの無駄だった。

 アルウィードだって、力がある。
 その気になれば、いつだって三千花を征服することができただろう。

 だが、そうしなかった。

 いつも強引に唇を奪うが、それ以上はしてこなかった。彼なりの葛藤と妥協を見たようで、笑いが込み上げてくる。

 衝動に逆らわず、彼女は声をあげて笑った。笑っているのに、涙は止まらない。

 ひとしきり笑うと、彼女の中に一つの名前が浮かんだ。

「アルウィード」

 初めてその名を呼んだ。
 瞬間、涙がさらにあふれて止まらなくなった。急なおかしさの次には急な悲しみ。自分がおかしくなったのではないかと思いながら、三千花はわんわん泣いた。

 ユレンディールに愛していると言われたとき、違う、と三千花は思った。

 彼女が言われたかったのは、彼からではない。

 なぜかアルウィードの優しい笑顔が浮かんだ。

 無性に会いたくなった。

 なぜいまここにいないの。

 いつもは呼ばなくても来るのに。

 どうして。

 三千花の涙は止まらなかった。


< 188 / 317 >

この作品をシェア

pagetop