聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
* * *
エミュリーが走って訪れたのは、アルウィードの執務室だった。
居合わせたリグロットは、プライドの高い彼女が髪を振り乱して令嬢のたしなみも無視して走ってきたことに驚愕した。
息も切れ切れに、エミュリーは自分が見たことを報告する。
「それで、ユレンディールは」
憤怒をはらんだ低い声と形相で、アルウィードは尋ねる。エミュリーは彼のそんな姿を初めて見た。
「すぐに部屋を出ていかれました」
聞いた直後、彼は転移魔法を使う。
リグロットが制止の声を上げたときには、もういない。
転移目標はユレンディールの執務室だ。
果たして、彼はそこにいた。執務机に向かっている。
「貴様!」
机を飛び越え、アルウィードは彼を殴った。
ユレンディールが椅子ごとふっとんだ。机の上の書類やインク瓶もまきこみ、飛び散る。絨毯に黒いシミが広がった。
アルウィードはそのまま馬乗りになり、襟首を両手で掴む。
「いきなり乱暴だな」
ユレンディールは目を細めた。
「どの口で」
アルウィードはさらに殴った。左手は襟首を掴んだままだ。
「よくも三千花を――!」
「守れなかったくせに」
ユレンディールが皮肉に笑みを浮かべる。
アルウィードが動きを止めた。
「彼女は私を受け入れてくれたよ。いいところで邪魔が入ったが」
「嘘だ!」
「嘘じゃない。彼女は喜んでくれた」
アルウィードはユレンディールを鋭く睨む。彼を掴む手に更に力が入る。
「嘘をつくなと言っている」
「貴様より俺のほうがうまいってさ」
「彼女を侮辱するな!」
三千花がそんな俗なことを言うわけがない。
アルウィードは拳を振り上げた。
「そもそも彼女の同意もなく連れてきたのはアルだろう。無理矢理に、だ」
会議でリーンウィックが話していた。三千花が晴湖にそう語っていたと。ユレンディールはアルウィードを見下げるように目を向ける。
アルウィードの振り上げた拳が震える。
「なんで私だけが責められるんだ?」
「それは――」