聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜


 * * *


 博物館へ行く手配が整ったのは、数日後だった。
 何かしていないと気が狂いそう。そう思って外出を承知したのに、数日後まで待たされて、三千花はイライラしていた。

 シェリナが仲直りしたいと言うなら応じたいと思ったのも正直な気持ちだ。だが、それが失せてしまうほど、三千花の心は落ち着かなかった。

 ちょうどここ数日、晴湖との散歩をしていなかった。彼女は体調を崩して寝込んでいるらしい。

 それもまた三千花を精神的に追い詰めた。
 自分のせいで晴湖が無理をしていたのではないか、と自身を責めた。

 前回同様、リグロットの同行は決まっていた。
 昼食後に迎えが来て、シェリナと合流する。
 シェリナとともに王宮の美麗な箱馬車に乗った。

 お忍びですよ、とリグロットは言っていた。

 だが、こんな立派な馬車が王宮から出たら、重要人物が乗っているのはバレバレなのでは、と三千花は思う。これでも王宮では地味な部類に入ることを彼女は知らなかった。

 装飾は控えめだが、見事な彫刻と見事な二頭立ての馬。御者台には御者と見張り、馬車の後部にも護衛が立っている。騎馬による警護は前回より増えている。

 今のところシェリナからの謝罪はなく、挨拶をしたあとは二人とも無言だった。

 シェリナは満足そうに馬車に乗っていた。
 金の刺繍(ししゅう)(ほどこ)されたラベンダー色のドレスを着ていた。胸元にはビジューだか宝石だかが縫い込まれ、キラキラしている。レースやフリルもたくさん使われていた。ドレスは見事だが重そうな上に肌の色に合わず浮いていた。化粧が濃くて、これも似合っていなかった。ビジューから反射した光が点々とまだらに顔に散っていた。
 香水の強い香りが車内に漂う。
 三千花は鼻をつまみたい衝動と戦っていた。

「空気を入れ替えますね」
 馬車に乗ってしばらくすると、リグロットはそう言って窓を開けた。
 同じ気持ちだったのか、と三千花は少しほっとした。

 そのときだった。
 馬車がガクン、と強く揺れて止まった。

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