聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「何だ!?」
 リグロットが御者台に向かって叫ぶ。

 返事のかわりに男の悲鳴が聞こえた。
 力づくで馬車の扉が開けられる。

「何者!」
 叫ぶと同時にリグロットは魔法で防御壁を作った。

「効かないねえ」
 現れた男は何かの紙を馬車に貼る。魔法の壁が消えた。

「ばかな!」
 驚愕しながらもリグロットは攻撃する。手を向けると同時に稲妻のような光が襲撃者を襲う。襲撃者は倒れた。が、ほかの襲撃者がまた彼に襲い掛かる。それもまた魔法でなぎ倒す。

 リグロットの背に、シェリナがハガキ大の紙を貼り付けた。
 彼は、だが、振り向かない。敵に背を向けるわけにはいかない。

 リグロットはさらに手を敵に向けるが、今度は何も起こらない。

 魔法が出ない?
 三千花は不審に思う。

 彼の背に貼られた紙には、何かの図形が描かれていた。
 あの図形は、博物館で見たような――。

 シェリナがニヤニヤ笑っている。
 なんでこの状況で笑っていられるのか、三千花にはわからない。

 三千花がそれを剥がそうと手を伸ばす。が、一瞬早く、リグロットは馬車から飛び降りて腰の剣を抜いた。

「逃げて!」
 三千花とシェリナに言う。

 だが、その出入り口はリグロットに塞がれている。

「邪魔だ!」
 襲撃者が叫ぶ。
 リグロットがふきとんだ。
 敵が魔法を使ったのだ、と悟った三千花は、とっさにシェリナをかばうように馬車の入り口に立つ。

「攻撃して!」
 叫んで、指輪に意識を向け、左手をつき出す。軽い衝撃波がとび、敵がひるんだ。
 もっと、もっと強い攻撃を。
 そう思った三千花の背が叩かれた。

 思わず振り向くと、シェリナがニヤリと笑った。
「あんたもう魔法使えないから」

 何、と思ったときにはもう馬車から引きずり降ろされていた。
 どさっと倒れ込み、全身を打つ。

 垣間(かいま)見えたのは、横たわった兵士と馬、その体から流れる血。
 リグロットもまた血を流して倒れていた。

「――!」
 悲鳴は声にならなかった。

「手間かけさせやがって。大人しくしないと殺すぞ」
 三千花を抑え込み、剣をつきつけ、男は言った。

 あっという間に縛り上げ、猿ぐつわをして、目隠しをする。
「すぐには殺さない。第二王子が来るまではな」
 男のせせら笑いが聞こえた。

 また彼に迷惑をかけてしまう。
 思った直後、三千花の意識は失われた。


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